days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Blade Runner 2049

Blade Runner 2049
『アート・アンド・ソウル・オブ・ブレードランナー2049』が到着!
とにかくデカい高額本(1万4千円の本なんてもう買わないかも)で、物々しく専用ダンボールに入っています。
巨大ハードカバー本は印刷も美麗でした。
早速5歳の息子が興味津々にめくります。
何故か囁き声になりながら。
それだけ威圧感があったのか…。
これまた美麗な特製アートプリントと、添野知生さんら執筆の小冊子『SFマガジン ブレードランナー2049特別版』も同梱されていて、こりゃエアコンの効いた部屋でゆっくり読むぞ。
楽しみです。


ということで、購入以来未開封だった『ブレードランナー 2049Blu-rayを自宅なりの爆音鑑賞!
画面が50インチなので爆音といってもそれなりですけど、時折壁がウーファーで振動していましたから!
外は台風上陸間近という土曜夕方に、家族不在を良いことに大音量で楽しみました。


1982年の名作『ブレードランナー 』の続編は劇場公開時のIMAX 3D鑑賞以来です。
ルックはあちこち変えてあっても、根底にある暗い未来観は1982年版と変わらず。
前作がハードボイルドSFなのに対し、こちらはミステリSFの趣きです。
あちらへの目配せも沢山あるし、小道具類にいちいち感心させられて、SFとしても楽しめます。
捻りのある脚本とロジャー・ディーキンスの撮影も美しく、また主役の捜査官Kのライアン・ゴズリングも好演。
アナ・デ・アルマスのジョイは超絶可愛いし、シルヴィア・フークスのラヴは魅力的な刺客です。
ハリソン・フォードは安定のドタ足走り。
面白かったし好みであるものの、いかんせん上映時間163分は長い。
ゆったりとしたテンポで世界に浸れるのは良いのですが、あと30分は短くても良かったのでは。
ラストも蛇足に感じました。
ゴズリングのショットで締めた方が良かったと思ったのです。
要所の暴力描写はパンチが効いていて迫力がありました。
あの名曲「ティアーズ・イン・ザ・レイン」の使い方はズルいなぁ。
人間とは?という問いを深化させていたものの、一方で分かりやすい回答編とも取れ、随分とお行儀の良い仕上がりだったのも気になりました。


と、こんな感想を劇場鑑賞時に抱いたのですがさて再見するとどうなのやら。
人造人間たちの物語が心を奪いますが、やはり2時間43分は長いとの印象は変わりません。
1シーン1シーンは良いのに、それぞれが長いのです。
しかし改めて見て、私はそれでも良いじゃないかと思いました。
その点では初見よりも甘めの評価です。
主人公の凄腕捜査官振りが楽しめる捜査場面はミステリとして面白いし、そこは前作での主人公デッカードの凄腕捜査官ぶりが余り伝わらない捜査場面への返歌でもあります。
そんなこんなであちこちにある目配せは、『ブレードランナー』が大好きな人間としてはにやにやしてしまいました。
リドリー・スコットによる前作がハードボイルドSFだったのに対して、ドゥニ・ヴィルヌーヴによる今作はミステリSF。
このタッチの違いが監督の資質の違いでもあって興味深い。
終始緊張感が途切れないし、物語も面白いし、ロジャー・ディーキンスによる超絶美しいショットの数々で見入ってしまいました。
2度目なので物語を知った上で観ると、Kが余りに可哀想。
生まれも育ちも境遇も孤独で、搾取され、心の拠り所を奪われ、救われない。
そんな彼による生き様の転換が、映画のテーマである「人間とは何か」となっているのも上手でした。
それとやはり、終幕で流れる名曲「ティアーズ・イン・ザ・レイン」!
やはりこの映画は「上手い」し「ずるい」のです。


Blu-rayとしてはかなりの高画質、高音質。
鮮鋭感のある撮影はやはり素晴らしいです。
ベンジャミン・ウォルフウィッツ&ハンス・ジマーによるドロドロ轟音系音楽が、包囲感たっぷりでした。

アート・アンド・ソウル・オブ・ブレードランナー2049

アート・アンド・ソウル・オブ・ブレードランナー2049

Solo

”Solo” poster
ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリーIMAX 3D字幕版をミッドナイトショー鑑賞しました。
傲慢不遜で守銭奴の密輸船船長ハン・ソロは、映画史に残る人気キャラです。
その男の若き日の冒険を描く映画は、撮影後半の監督交代騒動があったものの、まずは楽しい映画には仕上がっていました。
正直に言って鑑賞直後はどこか釈然としなかったのも事実ですが。


何と言っても最も注目されるのは、ハン役のオールデン・エアエンライクでしょう。
これが予想以上にハンでした。
ハリソン・フォードの演技のコピーはしていないのに、ハンの若き日と思わせる演技。
純粋な若者が色々と苦労して、ああいった頑固兄ちゃんになるのだろう、と思わせるだけで成功しています。
他の登場人物もキャラが立っていて魅力的。
ハンのメンターであるウディ・ハレルソンはハマり役。
ファム・ファタールエミリア・クラークは、日中に『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ていたので、その差にびっくりです。
当たり前ですがこの人はスターではなくスター俳優なのですね。
そしてスター・ウォーズに珍しく、露出度ではなくともセクシーな女性キャラという、意外に画期的な役でもありました。
ランド役ドナルド・グローヴァーの陽気な胡散臭さは楽しいし、もっと観たいと思わせます。
自分で自伝を吹き込んで執筆しているなどケッサクです。
組織の顔役ポール・ベタニーも、如何にも冷酷で緊張感があって良かった。
出番でさらっていたのは新キャラのロボットL3-37。
彼女はスター・ウォーズで今までになかったキャラだ。声を当てているフィービー・ウォーラー=ブリッジの熱演も良い。
職人監督ロン・ハワードは大作よりも、むしろ小味なドラマの方が実力を発揮して来た監督ですが、この作品でも何より人物描写が活き活きとしています。


ローレンスとジョンのカスダン親子による脚本は、二転三転する展開は宇宙版小悪党物語として面白いし、アクションにも工夫がされていて楽しい。
特に前半にある列車襲撃場面は賑やかです。
スター・ウォーズ関連の小ネタを塗すのも忘れていません。
しかし終幕など、避けられない運命の対決とは言え、あっさり気味なのも確か。
今までのスター・ウォーズならば、同時に幾つも派手な大戦闘場面を並行させていたのに、これはそういった過去作品に比べると明らかに小ぢんまりとしています。
私も鑑賞直後はこれで良いのか、と首を傾げました。


そこではたと気付きました。
そうか、これはエルモア・レナードの宇宙版なんだ、と。
レナード…明るく陽気でお喋りな小悪党どもがうようよと登場し、物語をドライヴの掛かった変化球の如く展開させていた、犯罪小説の大家です。
軽快な語り口。
キャラが立った小悪党どもが知恵と度胸で騙し騙される。
そしてこれしかない運命の対決もあっさりとカタが付く。
ロン・ハワードの『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、レナード・タッチのSF冒険活劇と考えれば合点が行きます。
ハワードがレナードを意識したかは分かりませんが、いささか重々しくなってしまった本家から失われてしまった、気軽に楽しめるSF冒険活劇の風味がこちらにあります。
これは中々捨てがたいものです。

万引き家族

”万引き家族”
是枝裕和の話題作『万引き家族』を鑑賞しました。
是枝作品を何と大画面・大劇場で観られるとは!
大作でない邦画がそのような状況とは、めでたいものです。


東京の下町で暮らす、貧しくも笑いが絶えない3世代の5人家族。
日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)、クリーニング工場で働く母・信代(安藤サクラ)、息子・祥太(城桧吏)、風俗店で働く信代の妹・亜紀(松岡茉優)、家主である祖母・初枝(樹木希林)。
そこに親から虐待を受けているらしい、幼い少女ゆり(佐々木みゆ)を治が見かねて拾って来たところから物語は始まる。
両親の安い賃金だけでは暮らしていけないので、治と翔太の万引きが貴重な食料調達の手段となっている。
季節は流れ、ゆりも家族に心を開いて行くようになる。


この映画で描かれている貧困は、ぎりぎり食べて行けるけれども働けど働けど貧しいというものです。
世間に露わにならず、ひっそりと静かに、だが確実に数多く存在する貧しさです。
ここに夢や希望は無い、という向きもありましょう。
しかし笑いがあって思いやりや愛情がいっぱいの家族は、ある意味で夢の家族ではないのでしょうか。
たとえ夢はいつか終わるものであっても。
これまでも家族の在り方を描いて来た是枝は、いつものようにある家族の形を淡々と描き、犯罪を犯す彼らを断罪することはしません。
安易な感情移入を排し、だが冷徹にはならず、劇中の家族とは一定の距離を置いて描きます。
そして観客の前に押しつけがましいことなく、ただ差し出すのです。
観客は自分ならどうするか、自分がどう思うか、常に意識せざるを得なくなります。


先日、チャイルディッシュ・ガンビーノのPV「This is America」が物凄く話題になりました。
現実のアメリカを抽象的に表現した衝撃的なPVでした。
私はこの映画こそ「This is Japan」だと思います。
日本の現実を見つめたくない向きには嫌われているようですが、一方でこのような映画が大ヒットしているのは痛快ですらあります。
これは今の日本を描いた必見の作品です。


役者では安藤サクラの貫禄が凄い。
そして是枝作品らしく、女優たちが艶っぽく描かれているのも特徴です。
細野晴臣の空間を活かした音楽も効果的でした。

12 Strong

12 Strong
ホース・ソルジャー』を観て来ました。
同時多発テロ直後のアフガニスタン戦争で、アメリカが最初に行った反撃を題材にしたもの。
5万のタリバン軍に対して、反タリバン軍と共に12人のアメリカ軍が馬に乗って次々と拠点制圧を行った作戦を描いています。
クリス・ヘムズワース演ずる主人公は、部隊のリーダーでありながら実戦経験がない経歴、というこの手の映画では珍しいものでした。
頼りになる相棒にマイケル・シャノンマイケル・ペーニャらが出ています。
シャノンがハリウッド娯楽映画で善玉というのも珍しい。


タリバン極悪、アメリカ軍万歳という内容で、ジェリー・ブラッカイマー製作映画みたいだなと思いながら観ていたら、本当にブラッカイマー映画で驚いきました。
ニコライ・フルシー監督のデヴュー作は迫力ある戦闘場面など見応えはあるものの、劇中での地理的な距離感が全く分からないのが気になります。
よって戦闘場面でも混乱することがありました。

Aus dem Nichts (aka: Into the Fade)

Aus dem Nichts (aka: Into the Fade)
カンヌ映画祭で女優賞を受賞した『女は二度決断する』を観て来ました。
ハンブルグでトルコ系移民の夫とその間に出来た幼い息子を、爆発で失った妻の物語です。
捜査が進むにつれて、事件は極右ネオナチによるテロでないかとの疑惑が深まるのですが。

ドイツの俊英ファティ・アキン監督は、ダイアン・クルーガー演ずるヒロインを徹底的に痛め付けます。
家族を失い、捜査の過程で夫を貶められ、裁判でボロボロになります。
観ていて痛々しいとはこのこと。
だから彼女が下した決断は唐突でなかったように思いました。


クルーガーは彼女のベスト演技でしょう。
「美人女優」のレッテルを自ら剥がせることを証明しました。
テロへの憎しみと平和への願い、そして物事は単純化されるものではないという意思がこもった誠実な映画だと思います。

I, Tonya

I, Tonya
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観て来ました。
1991年にアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、1994年のリレハンメル五輪の選考会開催中、友人でありライバルだったナンシー・ケリガンを殴打させたとしてスキャンダルの渦中の人となったトーニャ・ハーディングの半生を描いています。


と言ってもかなりひねった作りの映画になっており、通常のドラマの合間に登場人物らがドキュメンタリカメラ(という設定の)こちらに向かって話し掛けるスタイルになっています。
しかも言っている内容が人物によってばらばら。
いわゆる羅生門スタイルを取っているのも面白い。
クレイグ・ギレスピーの演出はブラックな笑いをまぶしつつ、社会の底辺にいるクズ人間たちを活写。
特にトーニャへの目線がクズはクズでもスターのクズとして描いています。
またケリガン襲撃事件の作戦も、クズ人間たちがよってたかってクズっぷりを披露した超いい加減なもの。
笑うしかありません。
かように映画は非常に面白い出来に仕上がりました。


ハーディング役マーゴット・ロビーも熱演ですが、その母親(今なら毒親)役アリソン・ジャニーの怪物ぶりが凄い。
DV夫役セバスチャン・スタンはマーベル映画のときとまったく違う役どころで、これもまた強烈でした。

Unlocked

”Unlocked”
アンロック/陰謀のコード』を鑑賞しました。
CIAの凄腕訊問官だったアリス(ノオミ・ラパス)は、かつてテロ事件を止められなかったとの自責の念からロンドンでケースワーカーとして勤務しています。
ある日、バイオテロ計画の容疑者を尋問する為に呼び戻された彼女は、CIA内部に裏切り者の存在を知り、孤独な戦いを繰り広げて行くことになるのですが。


安手のB級映画かと思いきや、しっかりした娯楽アクションスリラーでした。
監督は大ベテランのマイケル・アプテッドです。
アクション場面も含めて、極めてオーソドックスな演出が光ります。
トニ・コレットアニー・レノックス似で驚かされました。
他にもマイケル・ダグラスジョン・マルコヴィッチオーランド・ブルームとキャストも豪華です。


主人公の訊問スキルが発揮されるのが序盤のみで、途中からはよくあるアクション・スリラーになってしまうのが残念でしたが、気楽に楽しめる映画でした。