days of cinema, music and food

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graphic novel "Absolute Batman: The Long Haloween"


フランク・ミラーの傑作『バットマン/イヤーワン』の続編と設定された、ジェフ・ローブ作&ティム・セイル画の『バットマン:ロング・ハロウィーン』を読みました。
ミラーの傑作については以前にご紹介しましたが、こちらも紛れも無くグラフィック・ノヴェルの傑作。
日本版は上下巻で各3千円以上もする高額なものですが、読後の満足感はかなりのもの。
最近読んだバットマン関連のグラフィック・ノヴェルの中では1番のお気に入りかも知れません。


前書きにはクリストファー・ノーランデヴィッド・S・ゴイヤーへの短いインタヴューが収録されており、2人は本書の映画『バットマン ビギンズ』と『ダークナイト』への影響を語っています。
そう、本書を読めばこの2本の新バットマン映画への影響が大きいのはすぐに分かります。


ブルース・ウェインバットマンとして活動し始めて2年目。
ゴッサム・シティに、毎月祝日に凶行を重ねる謎の殺人鬼ホリデイが出現します。
ホリデイは市を牛耳るマフィア、ファルコーネ一族を次々殺害し、ファルコーネは敵対するマフィアがホリデイではないかと疑います。
バットマン、ジェームズ・ゴードン警部、ハーヴィー・デント地方検事は、ホリデイを追うべく手を組むのですが。


内容はバットマンゴッドファーザー+ミステリの融合といったところ。
ゴードン、デント、執事のアルフレッドといった善玉キャラは当然ながら、キャットウーマンも含め、ジョーカー、リドラー、カレンダーマン、スケアクロウ、ポイズン・アイヴィーといった常連悪役キャラ(キャットウーマンの立ち位置は微妙ですが)も大挙登場。
これらのキャラやアーカムアサイラムも出て来ましたので、先日プレイした傑作バットマン アーカム・アサイラム』に出て来た各キャラとのイメージの差異も楽しめました。


ゴッドファーザー』の影響は、これはもう、模した台詞があちこちに出て来ますし、意識したコマもあるので、明らか。
と思っていたら、作者たちも付録のインタヴューで白状していました。
大体にして、顔役のファーストネームであるカーマインは、フランシス・フォード・コッポラの実父と同じですからね。
これも恐らくわざとでしょう。


ミステリとしては、コミックの範疇という条件は付くものの、それなりに読者に対してフェアであろうとしています。
誰が真犯人か、想像しながら読み進めるのも興味深い。
しかしテーマは重いものです。
私は本書のテーマを、正義と悪の境界線、および人を信じて裏切られる者の悲しみだと捉えました。
前者に関しては本筋に関わるのでここでは明かせませんが、後者はナイーヴなブルース・ウェインバットマンの姿に集約されると思います。
そして暗転直下のエンディングには、ずしんと来るものがありました。


『イヤーワン』に比べてハードボイルド・タッチは後退したものの、ここには独特の語りのリズムがあります。
次から次へと事件は起こりますが、せわしくはなく、事件を取り巻く人物模様を端的に描き出しており、ペース自体は私に合っていました。
ジェフ・ローブというライターの名前は覚えておくことにしましょう。
ティム・セイルの画(ペンシラー、インカーを兼任していたようです)は、力強くも嫌味でない線と立体的構図、陰を効果的に使ったコントラストのはっきりした画を作り出しており、上質のコミックを見る喜びを味わわせてくれました。
バットマンが常に無精髭なのも、ブルース・ウェインの夜の活動であり、また髭など剃る時間も無いと思わせ、その必死さを物語っているようで良かったです。
前述した『アーカムアサイラム』のバットマンも、ゲーム後半になるに連れ無精髭になっていましたが、このコミックからの影響もあるのかも知れません。


詳細な脚注も各巻に挟み込まれており、読後にこちらと本編を付き合わせるのも楽しい。本書は高い価格設定であるものの、コミックに画だけではなく内容も求める者にとっては所有して何度も読み直すに値する傑作だ、と言えます。


バットマン : ロング・ハロウィーン ♯1

バットマン : ロング・ハロウィーン ♯1

バットマン : ロング・ハロウィーン ♯2

バットマン : ロング・ハロウィーン ♯2