days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Horns


ジョー・ヒルの第2長編作品『ホーンズ 角』を読了しました。


泥酔後のある朝起きてみると、イグの頭部には角が2本映えていました。
1年前、高校時代から10年間付き合った恋人メリンがレイプされ惨殺されて森で見つかった事件があり、それ以降のイグは街の住人達から容疑者ではないか、と不運な日々を過ごしてきたというのに。
イグの角を見た者は、自らの内面と暗い欲望をイグに吐露するようになっていたのです。


カフカの『変身』を想起させる掴みはOKで、アクセル全開です。
まさにジェットコースター的滑り出しの「奇妙な小説」。
しかし100ページほど進んでから、いきなり10年前に話が飛びます。
美少女だったメリンとの出会いと、友人リーとの出会いが描かれます。
これは父スティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』のような、ひと夏の甘酸っぱい思春期ものか…と思いきや。
ところがさらに次の章では…と、章ごとにスタイルを変え、時制を変え、変幻自在。
メインプロットはメリンの死の真相と、過去からの悪との対峙ですが、徐々に身も心も悪魔的に変貌を遂げるイグの様も興味を繋ぎます。
先を読ませぬ展開に語り口は緩急付け、最後にはホロリとさせる技巧振り。
どこか寂寥感のあるラストは、父の書いた『IT』譲りです。


700ページ以上を読ませる作品で、読後の満足度は高いものでした。


処女長編『ハートシェイプト・ボックス』より明らかに洗練され、素晴らしい出来栄えです。
あちらも面白い幽霊譚でしたけれどもね。


ホラーであり、ミステリであり、ロマンスであり、青春ドラマであり、殺人者の暗い真理を描いたノワールでもある、ごった煮的でありながら、1本筋の通った上出来の文学的娯楽小説としてお勧めです。

ホーンズ 角 (小学館文庫)

ホーンズ 角 (小学館文庫)