days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

映画3本ハシゴは"Django Unchained", "The Cabin in the Woods" & "Savages"


この土曜日は映画を3本観ました。
まずは朝から久々にクエンティン・タランティーノ好きの妻と一緒に。
ジャンゴ 繋がれざる者』は9時20分からの上映。
公開2週目の土曜朝9時20分からの回は、妻と私を含めて20人強の入りでした。
鑑賞後、妻は笑いながら「やり過ぎだ」。


南北戦争前。
奴隷だった黒人ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、突如現れたドイツ人シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)によって解放されます。
シュルツは元歯科医の賞金稼ぎで悪党3兄弟を追っており、彼らの顔を知っているジャンゴが必要だったのです。
銃器の特訓により、シュルツの相棒として敏腕賞金稼ぎとなったジャンゴでしたが、彼の愛する妻ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)への想いは消えませんでした。
彼女は奴隷として別の家に売られ、ジャンゴとの仲を引き裂かれてしまったのです。
やがてブルームヒルダは、悪辣な南部のプランテーション主キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)の元に売られた事が分かります。
慰安婦となっているであろう妻を救い出す為、ジャンゴとシュルツはキャンディの屋敷に向かいますが。


タランティーノの新作は西部劇転じて南部劇の痛快アクション映画となっていました。
上映時間2時間45分と相変わらず長いのですが、相変わらずグダグダなギャグと超血しぶきが笑える、残酷暴力娯楽映画となっていたのです。
…等と書くと近寄りがたく感じられるでしょうが、とにかく全てがやり過ぎ、大袈裟。
撃たれるといちいち血と肉片が1リットルくらい飛び散り、幾らなんでもそりゃないでしょ。
お蔭でクライマクスの大銃撃戦なんてぐちゃぐちゃ。
アメリカ映画の西部劇をパクったイタリアのマカロニ・ウェスタンをさらにアメリカでパクった…という生まれ育ちの映画ですから、大袈裟な血しぶきと大袈裟なキャメラワークも含めて、とにかく軽い。
劇中では50人くらい死んでいる映画なのに、です。
最初から最後まで深刻な主人公ジャンゴ以外は皆、とにかくぺらぺらよく喋ります。
KKKでさえ喋ります(史実では彼らが登場したのは南北戦争後)。
しかもしょーもない内容でぺらぺら喋ります。
そう、時代がどこであれ、舞台がどこであれ、これは間違いなくタランティーノ映画なのです。


1番ぺらぺらと軽薄に喋るのがクリストフ・ヴァルツ演じるキング・シュルツという男です。
小男のヴァルツがその名も「小男」という名前のドイツ人を演じるのがそもそもギャグですが、ぐらんぐらん揺れる臼歯のハリボテをバネで屋根に付けた馬車に乗って登場、というくだりからしてギャグそのもので大笑いです。
口も度胸も頭脳も腕もありますが、タラの前作『イングロリアス・バスターズ』での衝撃的なランダ大佐程にインパクトは無いものの、既に存在自体が映画の肝となっている「軽さ」。
しかもその役は意外な効能までありました。
欧州人であるシュルツは極悪な奴隷制度を理解出来ません。
これは奴隷制度を知ってはいても肌感覚では分かりにくい日本人にとって、かなり近い視点となっていました。
映画が進むに連れてシュルツの中で徐々に込み上げてくる怒りに、観客は同じ思いを抱いてしまいます。
かように映画前半をひっぱるのはヴァルツ=シュルツです。
ジャンゴのメンターとしてこれ以上の役者は居ないでしょう。
というか、タラにしては珍しくアテ書きとあって、水を得た魚の如く活き活きとしています。
ヴァルツの台詞回しと顔面演技は見ものとなっています。
素晴らしい!


そしてジャンゴ役ジェイミー・フォックス
喋りまくるヴァルツと無口なフォックスのコンビはドンピシャで、この2人はまた別の映画でも観たくなりましたよ。
しかもアクション映画の「庶民派」ヒーローとしてカッコ良いじゃないですか。
クライマクスの銃使いっぷり!
元々贔屓の役者でしたが、この映画は彼の代表作に入れて良いんじゃないでしょうか。


レオは初の悪役とか言われていますが、甘やかされた御曹司の悪役として『仮面の男』のルイ14世と私の中ではダブりました。
本作では奴隷同士で殺し合いをさせてそれを見て大喜び、しかも骨相学というエセ科学で黒人は従順であるなどとのたまう、虫唾の走る悪役です。
中々力の入った演技でしたが、レオ=キャンディよりも印象的なのが、サミュエル・L・ジャクソン演ずる老執事のスティーヴンでした。
スティーヴンはキャンディの父の時代からの執事で、黒人なのに黒人を徹底的に差別し、実質キャンディの屋敷を仕切っている男です。
要は屋敷はスティーヴンの城でもあるのです。
しかしジャンゴを見て、黒人が馬に乗って白人と同等の口を利くのを見て、自分の城の危機を知ります。
これでは他の奴隷達にも「分かってしまう」、と。
ですからスティーヴンはジャンゴらを徹底的に排除しようとします。
へらへらへりくだった態度を見せて静かに迫り、途端に牙を剥く蛇のようなジャクソンが素晴らしく、またこの凝った悪党の組み合わせが素晴らしく、敵として不足ありません。
ジャクソンは狡猾かつ情けない悪党を嬉々として演じていて、これまた笑えましたよ。


映画全体の根底には黒人の奴隷制度というアメリカの負の遺産を描きながら、しかしマカロニ・ウェスタンという「安手」の娯楽映画というオブラートに包み、娯楽アクションコメディにさえ仕立ててあって、よくもこんな映画を考えたものだなと舌を巻きました。
要所の緊迫感も素晴らしい。
時にシリアス、時に大笑い、時に暴力的、時に痛快と、タランティーノらしいごった煮闇鍋映画になっています。
出て来る白人はドン・ジョンソンジョナ・ヒルゾーイ・ベルら殆ど悪党で、しかもその殆どが殺されてしまうというヒドい映画。
いやぁ面白かった。
楽しかった。
これは是非、お勧めしたい映画です。



この日2本目の映画は『キャビン』でした。
公開初日の土曜レイトショウ、126席の劇場は6割の入りです。
昨年、北米で話題となり、また浅草で開催されたしたまち映画祭から話題になっていた映画です。


5人の大学生の男女(クリステン・コノリー、クリス・ヘルムワースら)が、人里離れた森の中のコテージに休暇にやって来きます。
うかれて騒ぐ彼らでしたが、やがて地下室で見つけた古い日記がきっかけとなり、怪異が彼らを襲います。
一方、地下の厳重な施設には彼らを監視する男女(リチャード・ジェンキンスら)が大勢居ました。
彼らの目的は…?


森の中の山小屋で若者達が何者かに襲われるスプラッター・ホラー映画など、掃いて捨てるくらいにあります。
特に本作が意識しているのはサム・ライミの怪作『死霊のはらわた』でしょう。
しかし…結論から言いましょう。
『キャビン』は予想を遥か彼方どころか想像もしなかった方向に行き過ぎの、大爆笑超バカ映画のケッ作です。
いやホント、よくこんな話を考えたもんだと感心しました。
監督ドリュー・ゴダード&製作ジョス・ウェドンの脚本家コンビは、ワイワイ楽しみながら書いたのかな。
何というか、本当にこんな話をよくもまぁ考え付いたものです。


ホラー映画としてのフォーマットに則り過ぎなのは意図的なものなのですが、同時にそうではないよ、というネタも冒頭から小出しにはしています。
それが地下施設の男達でもあるのですが、さぁて本作についてはどこまで書けば良いのか非常に難しい映画でもあります。
1つ言っておくと日本公式サイト、日本版予告編、それに出来れば日本版ポスター及びチラシは見ない方が良いです。
特に日本版予告編はネタバレなんてものじゃありません。
映画鑑賞後に自宅で「話題の」予告編を観たらビックリしました。
これ、ホントに酷いです。
想像を遥かに超える点では映画本編と共通しているものの、ここまでネタバレする予告編も『ダブル・ジョパディー』以来じゃないでしょうか。
いや、あれ以上に罪が重いよ。
全部言っているじゃないですか。
配給会社のクロックワークスは、一体何考えて宣伝してるの?
神経を疑いますよ。
『キャビン』の予告を先に観てからの映画本編の鑑賞は、予告通りの内容かどうかの確認作業にしかなりません。
客は映画を確認しに行くんじゃないんですよ。
それ以上のものを求めているんですよ。
ただお金取れば良いってもんじゃないでしょ。
こういう宣伝方針を決定したクロックワークスは恥を知れと言いたいです。



閑話休題


ドリュー・ゴダードの演出はそんなに怖くない(のはすっかり神経が麻痺している私だからかも)ですが、この与太話を1時間半というコンパクトな時間に収めた無駄の無い演出は誉めたいです。
恐怖と嘲笑と血みどろをぎゅうぎゅう押し込んだ剛腕ぶりは注目しましょう。
終盤の血みどろ場面、劇場では笑いが起きていましたよ。
ですが、やはり本作での最大の功績はジョス・ウェドンとの脚本です。
各素材は既にある見知ったものばかりですが、それを如何にくっつけるのかが現代の脚本家ならではの腕の見せ所。
その点に置いては、超強力な接着剤であの素材とこの素材をそうくっつけるのか、と唖然茫然大爆笑ものでした。
しかもちゃんとジャンルへの理解と愛情がある上なのが素晴らしい。
こういうマニアックで、且つそれが一般的な娯楽へと昇華されているのは、中々出来ないですよ。


こういうバカ映画は滅多に観られるものではありません。
好事家は是非に!



3本目はミッドナイトショウ。
『キャビン』を観てから一旦駐車場を出て、また入り直します。
ほら、駐車場無料のサービス券は最大4時間までですからね。
今度はオリヴァー・ストーンの新作『野蛮なやつら SAVAGES』でした。
公開2日目の土曜ミッドナイトショウは私を入れて20人程の入りです。


南カリフォルニアにて上質な大麻の密売ビジネスで財を成している2人の若者と、2人を愛する1人の女性がいました。
平和主義者で頭脳的なベン(アーロン・ジョンソン)と、その親友でネイビー・シールズ出身で猪突猛進型のチョン(テイラー・キッチュ)、そしてOことオフィーリア(ブレイク・ライヴリー)です。
恋人同士の3人は栄華を謳歌していましたが、彼らに目を付けたのがメキシコの巨大麻カルテルです。
ボスのヘレナ(サルマ・ハエック)の命を受けた残忍な幹部ラド(ベニチオ・デル・トロ)は、Oは誘拐拉致し、ベンとチョンを意のままにしようとします。
しかし愛するOをさらわれた2人は激怒。
悪徳捜査官デニス(ジョン・トラヴォルタ)からの違法な情報入手も含め、ありとあらゆる手段を使って対抗しようとします。


好きな作家ドン・ウィンズロウの原作は未読なのですが、監督は強烈男オリヴァー・ストーンです。
ウィンズロウとシェーン・サレルモ、それにストーンらによる脚本、そして演出は、最初からパワフル。
ナチュラル・ボーン・キラーズ』等の凝り過ぎやり過ぎ映像はやや抑え気味ですが、それでもカラーとモノクロが時に交錯する映像は少々狙い過ぎに思えました。
しかし軽快なテンポで飽きさせず、エスカレートする悪事の応酬戦は、暴力描写も含めてかなり迫力満点。
役者達の顔ぶれも見ものです。
特に登場するだけで緊張感の走るベニチオ・デル・トロはさすが。
目つきからして怖いですよ。


一般的な善悪の基準を持つものは不在で、登場人物は皆己のルールに従っている者ばかり。
基本的に生存本能が強い者が多いのですが、その中で自ら死地に飛び込むのを厭わない破滅志向のチョン役テイラー・キッチュ
去年からいきなり出て来た役者ですが、今回の役が1番良かったです。
映画は『ジョン・カーター』が1番好きですけどね。


北米では物議を醸したという終幕の展開。
あれは映画オリジナルなのではないでしょうか。
原作はどうなっているのでしょう。
私自身はそんなにイヤじゃないけれど、嫌いとか人を馬鹿にしているという意見は分かります。
そんな箇所も含めてやはり過剰な、オリヴァー・ストーンらしい映画になっていました。
血の滴る分厚いステーキそのもの。
過剰な映像、過剰な演技、過剰な展開。
いやはや、還暦過ぎてもこういう映画を撮れる体力が凄いです。
個人的には131分という上映時間の間、結構楽しめましたよ。