days of cinema, music and food

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2001 :A Space Odyssey

”2001 :A Space Odyssey”
製作50周年記念『2001年宇宙の旅』70mmアンレストア版鑑賞@国立映画アーカイブ。デジタル上映が当たり前の昨今にフィルム上映、しかも通常のフィルム幅(35mm)の倍ある大型フォーマットの70mmフィルム上映とは、中々滅多にお目に掛かれない企画だ。私も70mm上映体験は1992年の『遥かなる大地へ』以来。しかもこのスタンリー・クーブリックの映画は私のオールタイムベスト1だ。大型フォーマットならではの高解像度体験が得られるに違いない。これは行かないと!


国立映画アーカイブは初めての場所で、事前に聞いていたようにスクリーンは4.6m×9.7mと小さい。小学生の時に観た渋谷東宝、20代で観た渋谷パンテオンファンタスティック映画祭)に比べると、遥かに小さいスクリーンだ。それでも今回の上映は私にとってとても楽しい映画体験となった。


映画が始まると、まずは近年見慣れているデジタルリマスターによるパッケージソフト色温度高めの色調(=白っぽく冷たい色調)とはまた違う、温かみのある映像に目が行く。フィルム粒子はあるが気にならない。これも大型フィルムの恩恵だろう。そして音の良さ。冒頭の「ツァラストラはかく語りき」ではパイプオルガンの重低音が響く。金管が鳴り、フルオーケストラが大音響で鳴る。場内を満たす音! いや実際、『2001年』70mm版は音の映画でもあった。「人類の夜明け」での風や虫の音といった自然環境ノイズ。敵対するヒトザルを骨で殴る際の鈍い打撃音。「木星への任務」での宇宙空間では、無音や宇宙服の呼吸音が緊張を持続させる。終章の「木星 そして無限の宇宙の彼方へ」でのグラスが床に落ちて割れる音。無音も含めて音が素晴らしくデザインされているのだ。オリジナルの音声トラックは破損していて再生不可能だったため、1980年代に作成され保存された素材を元に修正を加えず、音声データをCD-ROMに焼いてフィルムと同期させ、dtsで上映しているという。もちろん現代の大作映画に比べたら音域が狭いのは当然だが、分厚い音は今までにない『2001年』体験だったと断言できる。


幾度も観ている映画だけにディテールにも目が行く。宇宙ステーションのホテルがヒルトンだったり、ラストのスターチャイルドの眼球がゆっくり微妙に動いているのを発見したりと楽しい。特撮のアラを見つけるのは簡単だが、精緻なミニチュアの数々は全く素晴らしかった。そして文字通り息詰まるような宇宙空間の恐怖表現は、これが間違い無く最高峰だ。左右上下に限りなく広がる空間の恐怖という点において、アルフォンソ・キュアロンの『ゼロ・グラビティ』ですら遥かに及ばず、わずかに『ブレードランナー』が並ぶ程度ではないか。


よく難解と言われるが、私自身はオーソドックスなSFアイディアが詰め込まれた映画だと思う。宇宙旅行、コンピュータの反乱、異星人、超人思想など、SF好きならば触れた事のある数々の題材が案外丁寧に扱われている。それを説明が無く一見「難解」風に、且つ観客の想像力に委ねられている作りのために、敷居の高い映画とされているのだろう。あれこれ解釈するのもまた、この映画の楽しみの1つでもあるのだ。


今回の上映では、20前後含めて20代の観客の姿も目立ち、また同時に初公開当時にテアトル東京もしくは大阪OS劇場でご覧になった方々もいらしていた(場内の挙手による)。前者にはひょっとしたらこれが『2001年』初体験の人もいたかも知れない。両者の世代が同時に観るとは何て素敵なことなのだろう。そして前説として今回の企画実現に尽力された主任研究員・冨田美香さんの解説も明快且つユーモラスで、とても良かった。上映前の彼女に対して、そして上映終了後の映画に対して、重いフィルム相手に奮闘してくださった映写技師の方々に対して、場内から温かい拍手が自然発生的に湧いた。これらもまた、素敵な映画体験だった。


近々公開されるIMAX版は、恐らく色温度が低めの画調ではないかと予想している。だがそちらもこちらも、『2001年』体験でもあるのだ。IMAX版も楽しみに待とう。