days of cinema, music and food

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"The Shining" on Blu-ray Disc


先日に引き続き、またまたスタンリー・クーブリックスタンリー・キューブリック)監督作品上映です。
一般には体調不良週間に観るべきでは無いであろう、どれも重量級映画ばかりですが、大好きな監督の1人なのですから、かえって心地良いもの。
今回は『シャイニング』。
これまたDVD-VIDEO版を2枚持っていますが、Blu-ray Discの買い足しは躊躇ありませんでした。
大好きな監督の作品を、より高品質の状態でホームシアターで観たいという欲求がありますからね。
その割りに、買ったのは相当に前なのではありますが。


DVD-VIDEOの1番最初にリリースされたのは、画面比がスタンダード、モノーラルで画質の評判も宜しくありませんでした。
次にリリースされたのはリマスター版。
画質も音質もアップしています。
そして今回のBD版は真打…と言いたいところなのですが、ここに大きな問題があります。
1番最初の北米公開版144分に対し、リマスターDVD、BDは共に国際版119分なのです。
20分以上カットされた為に、一部の登場人物、細かい説明やドラマ、クライマクスの怪異が無くなっています。


じゃぁ映画の質としてはどうなのよと言えば、クーブリック・ファンの大方と違って、個人的には国際版の方がテンポがあって出来は良いと思います。
北米版は丁寧ではあるけれどもやや鈍重。
まぁクーブリックらしい重量感があるのは確かなのですが。
北米版だと、「血の奔流」をダニー少年が見た後に女医の登場場面があります。
そこでヒロインであるウェンディが、女医に「夫ジャックはかつて原稿を散らかしたダニーの肩を掴んで脱臼させた」と言うのですが、これによって主人公ジャックがストレスを抱えた危険な人物と思えるのです。
同じ事件については、映画の後半でジャックが実在しない筈のホテルのバーテンダー、ロイドに語る場面があるので、女医との場面は、まぁそんなに無くても良いのでは、と思ってしまいます。
無くても良いと思える最大の理由は、ジャック・ニコルソンの大袈裟演技。
最初から狂っているように見えます。
先日のヴィンセント・ドノフリオと言い、本作のニコルソンと言い、時としてクーブリックは類型的なオーヴァー・アクトを好む傾向にあるようです。


スティーヴン・キングの原作は、彼の作品の中でも特に大傑作の1冊だと思います。
長い小説なのに徐々に恐怖と迫力が加速し、クライマクスの爆発的圧倒的大迫力で読者を作品世界に引きずりこみ、最後はカタルシスさえ与える。
そんな大傑作です。
ですから作者が映画に対して抱いた不満、つまりクーブリックはホラーを分かっちゃいない、というのもうなずけます。
原作が亡霊が巣食う巨大ホテルを舞台にし、心の弱さを突かれて次第に狂気に陥る夫=父親、怪異に悩まされる母=妻、異常な環境によって自らの持つ超能力が開花されゆく子の物語であったのに対し、映画はもっと矮小化しているように思えます。
つまり最初からやや狂気じみた主人公と、彼に脅かされる妻、予知能力で危機を感じるだけの子というだけになってしまい、最後は主人公は過去に捕われるだけとなってしまう。
まぁ考えようによっては、過去志向の父と、これから成長して大人になっていくであろう子の対比、という見方も出来ますが、それにしては子の描き方が弱い。


そんな訳でキングが「あの映画はキャデラックのようなものだ。見かけは立派だがエンジンが無い」等とくさす気持ちも分かるし、ドラマツルギーとしては物足りない。
しかし映画とはドラマだけではなく、映像がときとして主役であり得る。
この映画で一般的に注目されたステディカム撮影によるホテル内の移動場面や、クライマクスの雪の迷路での追跡場面など、クーブリックならではのタテ移動を多用した映像は観ていて快感。
そして時折挿入される横移動撮影。
今回気付いたのは、恐怖場面はタテ移動、ドラマ部分は横移動と使い分けているのでは、ということ。
巨大なセットを建築して作り上げた閉鎖的空間で、思う存分映像実験をしていたのでしょう。


さてこちらも有名な双子の少女登場の映像。

これについては面白い思い出があります。
映画の公開時である1980年冬、NHKで毎週火曜(だったか)の19時半からの30分科学情報番組『ウルトラアイ』にて、確か恐怖をテーマとして回がありました。
そこでとある女優(名前は覚えていません)にセンサーを付け、この映画を観てもらったのです。
すると双子少女などのショック映像になると、センサーがびゅんと反応する、というのがありました。
リアルタイムでは観られなかった映画ですが、こんな理由で既に知っていたのですね。


この映画を初めて観たのは、今から25年ほど前。
中学1年のとき、地元にあった三軒茶屋東映という名画座で「スタンリー・キューブリック特集」というのが組まれていたのです。
そのプログラムが凄くて、朝いちは『シャイニング』、休憩時間後に『時計じかけのオレンジ』、また休憩時間後に『博士の異常な愛情』という、特に3本目など映画館で観られるとは思わなかったので、日曜朝から観に行ったのでした。
場内は満席でしたが、観客の反応で特に印象的だったのは『博士の異常な愛情』。
ブラック過ぎたのか、私も含めて笑う人は皆無。
出来が良くて面白くても、笑うに笑えない映画があることを知りました。



シェリー・デュヴァルの恐怖演技は映画史に残るものですね。


この映画でかねてからずっと気になっていたことについて。
冒頭、ウェンディ・カーロスの演奏に乗って青字タイトルが画面下から上に流れていきますが、この凝ったデザインは誰なのか。
最初はポスターのデザイン同様にソウル・バスかと思ったのですが、どうやら違うようです。

このポスターは、シンプルで的確で強烈、しかも非常に怖いデザイン。
バスらしい仕事です。
しかし映画本編にはタイトル・デザイナーがクレジットされておらず、IMDbにも記載無し。
誰か知りたいものです。


さて画質・音質ですが、1980年の元がモノーラルということで、新作と比べるのは酷。
しかし白を基調とした映像にはっとさせられる場面も多く、鮮度も結構保たれているのではないでしょうか。
ジャックがグレイディと話し合うトイレの場面。
赤と白という色使いが『2001年宇宙の旅』を思わせ、クーブリックならではのカラーデザインも楽しめます。
サラウンドは殆ど音楽のみ。
作品世界に集中させるだけの力強さがあるように思えました。

シャイニング [Blu-ray]

シャイニング [Blu-ray]

何故か北米版144分でのリリースがされない国内版ですが、現状ではこのBDが最良の状態なので、この映画がお好きならば手元に置いておきたいものです。

大傑作の原作もお忘れなく。
これから読める人が羨ましいくらいです。