days of cinema, music and food

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"True Grit" on Blu-ray Disc とステンレスタワシ効果


コーエン兄弟初の西部劇にして傑作『トゥルー・グリット』をBDで鑑賞しました。
昨年のサプライズ・パーティ当日に劇場で観て以来ですから、およそ1年振りの鑑賞となります。
いざ再見すると、やはり14歳のヒロイン、マティに肩入れして観てしまうのは、私にも娘が居るからでしょうか。
コーエン兄弟で1番好きなのはこれと『ビッグ・リボウスキ』なのです(次点は『ノーカントリー』)。
この兄弟ならではの計算高さや、上から目線が鼻に付かなくて、観ていて心地良い。
で、どちらもダメ男役でジェフ・ブリッジスという共通点もありますね。
好きな役者ですが、この2本のコーエン兄弟作におけるダメっぷりも面白いです。


映画は堂々たる西部劇で、銃撃場面も少ないのに緊張感満点で盛り上げます。
コーエン兄弟らしい皮肉っぽさとオフビートな笑いは、控え目ながらも健在。
またカーター・バーウェルって地味で特に好きでもない作曲家だったのですが、この西部劇音楽はアレンジも含めて好きですね。
今回、大音量で鳴らしたら、広々とした空間も意図されているかのようで、こちらの西部劇気分も盛り上がりました。


巨匠ロジャー・ディーキンスの撮影はやはり素晴らしい!
マティの登場場面、汽車の車窓とそこに反射する街並を捉えたショットからして鮮やか。

全体的に緻密な構図を狙ったというより、感性の赴くままに捉えられたかのような緩やかさが、本作にはぴったりです。
乾燥と湿気、寒さと痛さなども映像で語られています。
照明の美しさも特筆ものです。
ジェフ・ブリッジス登場場面の背景からの琥珀色の光が美しい。


マット・デイモン演ずるナルシスティックでも憎めないテキサス・レンジャー登場場面も良いですね。



少女が主人公の冒険物という主軸がありながらも、同時に寓話めいているのは、終幕の苦さのお陰でしょう。
チャールズ・ポーティスの原作は、1969年に『勇気ある追跡』として映画化されていて、コグバーンはジョン・ウェインが演じていました。
あちらはウェイン主役という印象で、ラストも万々歳といった内容だったと記憶しています。
しかしこちらは明らかにマティが主人公なのですね。
子供っぽいダメ男2人を引き連れ、頭脳も口も大人顔負けの彼女。
でも同時に明らかに少女でもあります。
そして彼女の”真の勇気”と引き換えに失ったものの苦さも描かれていて、そこが強い印象を残すのです。
これは素晴らしい幕切れだと思います。
マティ役ヘイリー・スタインフェルドは全く素晴らしく、堂々たる主演振りでした。


BDとしての画質は結構良いのではないでしょうか。
自然な色と構図にもうっとりしました。
音も結構良い。
派手なのは重々しくもカッコ良い銃撃音くらいですが、良く聴くと細かい効果音も結構入っていて、それぞれの分離感も宜しい。

それと台詞が肉厚で好みでした。
これは録音や調整スタッフ達も良い仕事をしましたね。
未見の方は是非、お見逃し無く。


さて先日の除電追加作業の甲斐あってか、画質はアップしたようです。
切れが良くなったと言えましょうか。
先日私が調整したときよりも、ぴしりとした画が出ています。
音はHDMIも含めて別途確認したいですね。
というのは本作は初めての再生だったので。
じわじわ系の除電という事なのか、やはり日にち経たないと、効果の程は体感出来なかったのでした。
こうなると他にもステンレスタワシ作戦を実行したいです。
また今度、100円ショップを覗いてみましょう。



特典は、いきなり13歳のヘイリー・スタインフェルドの呆れるほどのしっかりしたインタヴューにも圧倒されます。
でも目玉は原作者チャールズ・ポーティスをフィーチャーした30分のドキュメンタリでしょう。
本人はまだ生きていたんですねね。
半世紀で5冊だけ出して私生活は語らない謎の人物…。
でも私生活を語らない人なんて普通に居るのだし、まぁ実は一般人という事なのかも知れませんね。
その彼のジャーナリスト時代から作家としての歩み、現在までを取り上げていて興味深かったのでした。


嬉しかったのはロジャー・ディーキンスをフィーチャーした特典があった事です。
数分とは言え、撮影監督(Director of Photography=DP)がこの扱いとは珍しいのではないでしょうか。
ディーキンスの仕事をまとめたドキュメンタリ、誰か作ってくれないかな。
DPごとのそういう番組があったら、絶対に観ますよ。
DPを扱った本には『マスターズオブライト』という名著(浪人生だった時に散々立ち読み!)があります。

マスターズオブライト―アメリカン・シネマの撮影監督たち

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しかしあちらは1970年代のアメリカ映画DPへのインタヴュー集であって、現代の撮影監督についてみっちり取材した本も読んでみたいもの。
今でしたらディーキンス、ジョン・トールロバート・リチャードソンエマニュエル・ルベツキ、トム・スターン、ジェフ・クローネンウェスダリウス・コンジ等が取り上げられていそうです。
フィルムからデジタルへの過渡期ですから、興味深い話も聴けそうですよね。


そのディーキンスの新作はサム・メンデスと組んでいる『007/スカイフォール』。
ディーキンス初の長編デジタル撮影作品で、ジェームズ・ボンド映画としても初めて。
トゥルー・グリット』公開時のコーエン兄弟インタヴューによると、ディーキンスはデジタルにすっかり夢中で、兄弟の次回作もデジタルになりそうだとの事でした。
どちらも楽しみです。



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