days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Carol


過去の経験からすると年初公開される映画は当たりが多いのですが、今年は特にそう思ってしまいます。
特にこの『キャロル』には打ちのめされました。


1950年代初頭のN.Y.。
デパートで働く若いテレーズ(ルーニー・マーラ)は買物に来た裕福なキャロル(ケイト・ブランシェット)に目を奪われる。
キャロルが忘れた手袋をテレーズが届けたことから、2人は接近していく。
キャロルは離婚寸前の夫と一人娘の親権を争っており、またテレーズには結婚を申し込んでくるボーイフレンドもいるのだが。
やがて2人は自動車旅行に出る。


冒頭の高級レストランでの自信に満ちたキャロルの佇まいの美しさ…いや、全編に渡ってケイト・ブランシェットは他を寄せ付けない美しさ、妖艶さがあります。
彼女の顔立ちはいわゆる正統派美人ではないのに、本当の美とはやはり内面から出て来るものなのですね。
気高くて脆く、強くて弱く、成熟して子供っぽく、シリアスだが茶目っ気があって。
いや、ここまでの美女は映画であっても滅多にお目に掛かれません。
また今更ですが、とにかく演技が上手い。
細かい仕草まで神経が行き届いた演技なのに、小賢しくなく「生きている」し「体温が感じられる」のです。
キャロルに憧れる若く貧しいテレーズ役ルーニー・マーラも素晴らしい。
戸惑いや不安、恋に転じて行く高揚感、痛みなど全力でぶつけて来ていて。
この2人の女優が放つパワーには圧倒されてしまいます。


トッド・ヘインズの映画は毎回観ている訳ではないのですが、これは演出の技巧も冴えに冴えていました。
前述した冒頭のレストランの場面は終幕で繰り返されるのですが、視点の移動により人物の印象もまるで変わっています。
ここに限らず映画は主人公2人の間でゆったりと視点が移動していて、それが奥行を与えていました。
また粒子の粗い16mm撮影の美しさ。
赤やオレンジといった色をアクセントに使った淡い映像は、1ショット1ショットが美麗です(サンディ・パウエルの衣装やプロダクション・デザインも素晴らしい)。


そんな美しい世界に存在するのは甘美な瞬間ばかりではありません。
初めて肌を重ねる激情。
彼女らが想いをとげるための幾多もの障害(それは外界にだけ存在するのではないのですが)。
終幕で彼女らが取った選択には強い意志が込められているし、それが安易な悲劇に逃げることがないだけに、ある意味衝撃的でもあります。


出来るだけ多くの人に観てもらいたいと思う傑作です。