days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Body of Lies


モッツァレラを堪能した後は映画鑑賞。
お正月映画だと言うのに、シリアスで明るくない映画が大作として公開されるのも面白い。
テロとの戦いを描いたサスペンス・アクション大作『ワールド・オブ・ライズ』を観ました。


中東でテロ組織を追い詰めるCIA工作員フェリス(レオナルド・ディカプリオ)は、上司のホフマン(ラッセル・クロウ)の指示に従って行動しているのですが、相棒の現地人エージェントを失ったり、悲惨な現実を目の当たりにして疲弊しています。
ホフマンはワシントンD.C.から携帯電話で指示を送って来て、自らの手は汚さずに冷酷非情な采配をふるっています。


この対比が面白く、また現代テロ戦においては情報こそが価値があるというのも強調されています。
最新鋭の技術を投じたアメリカのやり方に対し、現地の情報局は人との接触が重視されています。
それはテロ組織もそう。
指令は人づてに口頭で送られたり、ヴィデオやCDで物が直接渡されたりするのです。


まぁ最後はどの手段が勝つか、というのは何となく予想は付きますが、兎に角冒頭から緊張感がみなぎる画面と早い展開に目が釘付けです。
リドリー・スコットの演出はさすがで、アクションとサスペンスの畳み掛けが素晴らしい。
冷酷非情な物語展開も相まって、フェリスの疲弊もこちらに伝わって来ます。


実は本編前の予告編で『レボリューショナリー・ロード』が掛かっていたのですが、そちらでディカプリオは葛藤と苦悩の演技のよう。
こちらもそうだったので、また葛藤してる、と少々苦笑してしまったのも事実。
演技派として認められたい故に、いつも葛藤している役ばかりなのでしょうが、そういう意味で演技は毎度安定はしていますが、見ていてそんなに面白い訳ではありません。
それでもこういった大作アクション映画の主演もしょって立つようになったのだから、それなりにカンロクも出て来たということなのでしょう。


クロウは太って憎まれ役を買って出ていますが、印象度はやや薄い。
いや、下品でアラブ文化に経緯を払わず、自分こそがアメリカで自分こそが正義だという、現代アメリカの国策そのものを体現していて悪くはないのですが、インパクトは弱い。


この2人を差し置いて興味深かったのは、マーク・ストロング演じるヨルダンの情報局局長ハニ。
いつもきっちりしたスーツで、ネクタイやカフリンクスも完璧。
頭脳明晰で恩に報い、しかし敵になると非情。
このキャラが際立っていました。
しかし考えれば、完璧なスーツ姿というのは完全に西洋化している訳ですから、欧米人の見たある種理想的なアラブ人像とも受け取れます。
それと、中東系ではないストロング(英伊のハーフ)がアラブを演じているのは、日本人の私から見ていて演技に違和感は無いものの、それで良いのかという気もします。
リドリー・スコットはこの映画を政治的メッセージは無く、あくまでも娯楽映画だと言っていますが、それにしても無神経というか、現代のテロを描くに際してもっと細心の注意が必要だったのではないでしょうか。


映画は息つかせぬ展開でとても面白いのですが、それもフェリスの恋模様が描かれると軋みだします。
こういった映画に必要だったのかどうか。
そして映画は残すところ1/4となったところで色恋沙汰がサスペンスをもたらすという展開になったところで、残念ながら空中分解を起こしてしまいました。
誰が騙されたとかは面白いのだから、もっと違う展開を用意しても良かったのでは。
それまで徹底したリアリズムだったのだから、と惜しまれます。
リドリー・スコットは、元々クライマクスが直線的に盛り上げられない傾向にある監督ですが、本作もしかり。
脚本の責任が大きいとは言え、ちょっと残念だったのです。