days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Thing


遊星からの物体X ファーストコンタクト』を観て来ました。
公開初日の土曜ミッドナイトショウは113席の劇場が何と4割以上の入り。
でもやはり男性率9割 (^^;
ジョン・カーペンター監督の1982年版『遊星からの物体X』の根強い人気を実感します。
その82年版、私は中盤の血液検査場面までは面白いけど、それ以降は緊張感が持続しないのがジョン・カーペンターらしいな…と思っています。
好きですけどね。
本作はそれの前日談という設定です。
サスケさんが輸入Blu-ray Discでレヴュー済みですね。


1982年。
南極のノルウェイ隊が氷の中から巨大な空飛ぶ円盤を発見します。
墜落現場近くの氷の中に謎の死体を発見した彼らは、それを検査の為に基地に持ち帰ります。
コロンビア大学で古生物を研究するケイト(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は、同基地のハルヴォルソン博士(ウルリク・トムセン)の誘いで極寒の現地に飛ぶ事になります。
しかしやがて死体は蘇り、脱走。
そして基地に犠牲者が出ます。
嵐で無線は通じず助けは望めません。
ケイトが残された血液を検査したところ、宇宙生物は細胞レヴェルで犠牲者を取り込み、コピーを作る事が判明します。
という事は、この中の誰かが宇宙人の可能性があるのです…。


前日談ですが、実質、82年版のリメイクと言って良い映画でした。
原題は同じ『The Thing』だし、タイトルデザインもそっくり。
もっとも後者は、そもそも82年版が1951年のオリジナル版『遊星よりの物体X』そっくりにした訳ですが。
まぁでも、「この結末であちらの冒頭に繋がるのか?」と思った終幕も無事に繋がってニヤリ&納得しました。
宇宙生物の変態場面は特殊メイクにCGを追加してパワーアップ、グログロ度もアップ。
スタン・ウィンストン配下で『エイリアン2』を担当し、『エイリアン3』で独立したトム・ウッドラフ・Jr&アレック・ギリス率いるアマルガメイテッド・ダイナミクスによるクリーチャー効果は、非常に精巧に出来ていて、本作随一の見ものとなっています。
特殊メイクとCGIの融合は悪夢のようにグロテスクなクリーチャーを見せてくれ、これは凄い。
むしろ、もっと色々見せてくれても良かったくらいです。
但し全体の単調さは否めません。
歯の生えた大きな口と気色悪い触手が主となっていて、もう少しバリエーションが欲しかったところ。
82年版もグログロモンスター大陳列会でしたが、あちらは何種類か記憶に残るモンスターが搭乗しました。
エスキモー犬、ノリス・モンスター、スパイダー、ブレア・モンスター…
しかしこちらは意外に見せ方があっさりしていて、個性に乏しく、「これぞ売り」のモンスターが分かりません。
技術的には高度なので惜しいと思いました。
やはりロブ・ボーティンは偉大なアーティストだったのですね。


マシーズ・ヴァン・ヘイニンゲン・Jrの演出は、こちらがホラー慣れしているからなのか、ちっとも怖くないのも残念でした。
これは「誰が異星人なのか」という疑心暗鬼の緊張感よりも、即物的描写に時間を取られているからです。
1匹モンスターが登場する度に何人かやられてしまうので、登場人物の目減りも早い。
これでは誰が異星人かという興味が薄れてしまいます。
82年版は人間と複製を見分けるのに血液検査を用いており、緊張感が素晴らしい場面となっていました。
こちらはどうするのかと思ったら、より原始的でありながら意外な手法を用います。
このくだりは脚本家達も頭を捻ったのでしょう、82年版を知っている観客を対象とした工夫がなされていて面白かったです。


人物はメアリー・エリザベス・ウィンステッドくらいしか印象に残らず、他は全くのお飾り状態でした。
彼女の存在とクライマクスのスモークの使い方で、リドリー・スコットの『エイリアン』を想起したら、パンフレット読んだらあちらのエレン・リプリーを意識したようです。
もっともヒロインのケイトも序盤はどのような性格設定なのは分からず、ウィンステッドは上手いかどうかはともかく熱演しているので勿体無い。
序盤は単に研究熱心な学者が、後半は生き残る為に、人類の為に非情になっていく…といった明確な性格の変化が与えられていれば良かったのに。
82年版でカート・ラッセルが好演していたマクレディに当たるカーター役ジョエル・エドガートンも、少々役不足でした。


『エイリアン』調なのは音楽もそう。
マルコ・ベルトラミの音楽はいきなり前作のベンベン節もちょい登場させてニヤリさせられましたが、全体には彼らしい故ジェリー・ゴールドスミス調スリラー音楽でした。
無論、ゴールドスミスは『エイリアン』の作曲家でもあります。
しかしエンドクレジットでは前作の音楽をそのまま流用してたっぷり聴かせてくれ、今も脳内でベンベンと旋律が鳴っているワタクシでした…(-_-;


82年版大好きな人向けの映画化とは言え、ホラー慣れしていない、前作を観ていない人にもそれなりに楽しめる可能性はあります。
というか、そういう観客の感想も聴いてみたいですね。