days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Zwartboek


ポール・ヴァーホーヴェン久々の新作『ブラックブック』鑑賞です。
劇場はテアトル・タイムズスクエア
新宿高島屋内にある大型の映画館ですね。
ここは元々アイマックス専用劇場だったので、スクリーンは都内一巨大。
アイマックス用だったので、当然ながら座席もスタジアム形式なので観易い。
但し最前列は恐らくかなり見上げる形となるので、真ん中から後ろの座席が良いでしょう。


渋谷の劇場では先週末がらがらだったそうですが、この日は座席数340がほぼ埋まる盛況。
評判が良い映画なので嬉しいです。


映画はレジスタンスに身を投じたユダヤ人女性の波乱万丈のスリラー。
第二次大戦末期のオランダを舞台に、家族をナチに殺された復讐の為に、ヒロインは髪(だけでなく陰毛まで)をブロンドに染めて、SS将校に近付きます。
が、その将校も人間味溢れる好人物だったという皮肉。
しかし家族を殺したのはレジスタンスの中にいるらしい裏切り者のよう。
犯人は誰か?
という謎解きも含めたスリラーで、ヴァーホーヴェンらしくやたらテンポが速い映画です。


女性客集客のためでしょう、宣伝ではラヴストーリーを強調していますが、ヴァーホーヴェンですから冷徹で皮肉。
情感を期待する観客は肩透かしを食らうでしょう。
裏切りと予想外の展開で、がんがん進みます。
ヒロインはこれでもかと過酷な目に遭いますが、歴史の波に翻弄されつつも生き残ります。


映画の冒頭は戦後のイスラエル
そこでヒロインを登場させ、彼女の回想形式で映画が進むのですから、当然ながらヒロインは生き延びるのが分かります。
それでも十分に面白い。


ヴァーホーヴェンはハリウッド時代では発揮出来なかった己の鬼畜趣味を取り戻して、伸び伸び演出。
エロ、グロ、ゲロ、スカトロとやってるわい、という感じです。
男も女も脱ぐのがヴァーホーヴェン作品ですからね。
グロは終盤に脳髄吹き飛ばされた死体とか、撃たれた首から血がドピューとかぐらいですが、やはりやってるのには変わりありません。
汚物まみれも渡米前に戻ったかのよう。


などと書くと単なるヘンタイ映画ですが、これがちゃんと脚本が良く出来ているのですから侮れない。
細かい複線が用意されていて、終盤にそれらが次々生きていく快感。
こういう緻密さは予想外の嬉しさです。


ヴァーホーヴェンらしさの真骨頂は、ニヒリズムでしょう。
レジスタンスには裏切り者がいたし、ナチにはレジスタントと和解の道を探るものもいた。
黒でもなく白でもなく灰色。
単なる善人など誰もいない。
そしてヒロイン=善人の苦難はいつまでも続く。


こういった己の思想を全く飽きさせない娯楽スリラーに仕立ててしまう力量は、凄いのではないでしょうか。
もう70近い歳なのに、パワー衰えること知らず、です。


カリス・ファン・ハウテンはルックスだけでなく、目力もあって、少女から大人になるまで、幅広い表情を見せてくれます。
素晴らしい女優ですね。
セバスチャン・コッホも中々良かったですが、雰囲気だけという気も。
やはりこれはカリスの映画なのです。


ヴァーホーヴェン映画のファンだけではなく、欧州製ハリウッド映画の趣きのある、かなりお勧めの映画です。
またハリウッド時代の映画も見直したくなってきました。