days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Queen


前売り券は買ってあるのに未だ観ていない映画。
でももうじき公開も終わりそう。
と、偶然にも同じ境遇だった大先輩のYさんと、会社帰りに渋谷の劇場まで出掛けました。
話題作『クィーン』を観に。
Yさんは英国大好きで、何度も国を訪ねているとか。
きっと彼女なりに愉しんでくれることでしょう。


19時45分からの回、小劇場は15人程度の入り。
話題作とは言え余裕で座席を確保出来ましたが、レディースデーや週末はまだ混雑しているようです。


ダイアナ妃の突然の死去に揺れる英国王室を描いたこの映画、サイドストーリーはトニー・ブレア首相物語でもあります。
就任直後、ダイアナ妃死去に関して冷淡だった王室に働きかけ、評判が失墜しつつあった王室の権威を保ったことにより、国民の信頼を勝ち得たブレア。
つまりはまだ若く、輝いていた頃の同首相の物語でもあるのです。
ブレア役マイケル・シーンも好感度の高い好演でした。


それでも映画の主役は紛れも無くエリザベス女王を演じたヘレン・ミレンです。
彼女の気品、威厳、そしてユーモアはこの映画そのもの。
単なるそっくりさんショーではなく、古式ゆかしいとでも呼ぶべき体質に芯から染まっている人間の揺れを克明に演じ、全く素晴らしい。


映画の脚本と演出も、暴露趣味に走ることなく、冷徹に、でもユーモアを忘れない人間観察が鋭い。
様々な思惑が走る王室及び政府機関の内情を具体的に描き、内幕ものとしても十分面白くしつつも、主眼は英国の母たる女王の姿を浮き彫りにすること。
そして英国特有の階級社会意識を描くこと。
そこから全くブレが無いのは頼もしい。


スティーヴン・フリアーズらしく、奇をてらうことなく着実に落ち着いた手さばきは見事なもの。
足腰強い演出は、地味ながらも最後まで全く飽きさせません。


素晴らしい脚本は緊張感のある台詞のやり取りが満載です。
女王とブレアの謁見場面、ダイアナが死んだことを知ったフィリップ殿下が思わず吐く台詞、共和制支持者のブレア夫人やブレア陣営のスタッフの容赦無い王室批判。
どれも直接的で辛らつ。
もし日本で皇室を描くとしても、ここまでは描けないであろう場面ばかりです(いや、そもそも皇室映画など出来ないでしょうが)。
ここに王室の近さが伺えますね。


関係者からのかなり綿密な取材に基づいているそうですが、どこまでが本当なのか、どこまでが作り話なのか分からずとも、見応えのある秀作ドラマとして、お勧め出来る映画になっています。


Yさんもかなり満足されたご様子。
遅い時間でのお茶も話が弾みましたが、映画以外の話が多かったような。
そういった脱線もまた愉し、です。