days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

家の中は戦場


今日は初の週末のドラマ撮影となりました。
今までは平日のみだったのですが、雨天などでスケジュールが遅れ、この日へとずれ込んだのです。
撮影用に提供するのは外観だけだったのですが、庭でも撮影、2階の1部屋も屋外からのクレーン・ショットで映るということなので、装飾されることになりました。
さらには1階は準備用等に全て提供することにもなりました。


そう、要は殆どの部屋を提供することになり、家主の居場所が無くなった訳です。


撮影部隊は朝9時半頃に到着。
まずは美術部隊の活躍です。


トップ写真は美術部の人(この方、因みにスタンリー・キューブリック、特に『時計じかけのオレンジ』がお好きだとか)が、ドラマ用に木々や花段などを並べようとしているところ。
美術の人は腰痛持ちが多いとか。
理由は重いものを無理して持ち運びしているからだそうです。
確かに負担が掛かりそうな仕事ですね。
こうして見ると3年目の芝がはげちょろけ。
すっかり雑草にやられてしまいました。
それでも撮影に使われると知っていたならば、春先に何とかしたろうに。


皆がせわしなく動く中、11時過ぎにロケ弁が到着。
TBSテレビのNさん(今回のロケハン担当の方です)がロケ弁を下さったので、やはりやって来た父と一緒に食事することに。
家主とは言え、準備の邪魔は出来ません。
居場所も無いので、2人して離れた空き地前で路上食事です。


2種類頂きましたので両方ともパチリ撮影。
僕が頂いたのはチキンでインゲンとチーズを巻いて揚げたものと、大根豚しゃぶ入りのもの。


父はお魚弁当。

どちらも野菜がしっかり入っていて、何気にバランスが取れています。
味も悪くなく、結構満腹感はありました。


さて、その頃も屋内は着々と準備が進んでいます。
リビングは主演男優の控えに、ダイニングは男優のメイクルーム兼ベースになりました。
ベースとは業界用語で、要は撮影拠点のことですね。
演出家がモニターの前に陣取り、その後方ではヴィデオエンジニア(VE)やサウンドエンジニア(SE)が居ます。
撮影時の支持や「カット」の合図、撮影後のリプレイを確認したりする訳です。
ダイニングには演出家と、恐らくはスクリプターの女性の2人が陣取っていました。
そしてキッチンはと言うと、急遽その場の依頼をOKしたので、ベースにもなったのです。
我が家はアイランド形式なので、その周囲をVEやSEの方々が陣取ることになりました。


さてこのベース、リビング側から見るとこんな感じになります。

手前のダイニング・テーブルの上に、アルミ製のメイクアップ箱や鏡が設置されているのがお分かりでしょうか。
奥側のVE用の設備は、殆ど全て車椅子(?)を改造したかのような台車に乗っています。
左手前のSE用設備は車椅子とは違いますが、やはり台車に乗っています。
どちらも機動性重視で、あっという間に撤収出来る優れものです。


キッチン裏から覗くとこんな風です。
上の写真で言うと左側からの視点になります。

写真右側の帽子を被っているSEの方は、ドイツのメーカー、ゼンハイザーのヘッドフォンを使っていました。
皆、ゼンハイザーを使っているのではなく、各々こだわりの品を使っているとか。
ゼンハイザーは音質だけではなく密着感も良いそうです。


VEの方は元々この業界志望ではなかったとのこと。
でも背広仕事はイヤだということで、飛び込んだとか。
皆で一緒になってものを作り上げるのが楽しいとおっしゃっていました。
因みにステディカム・オペレーターは腰痛持ちが多いそうです(ここでも腰痛)。
確かにステディカムって腰で重いキャメラ用アームを支えていますからね。


また、映画界で仕事をしてからテレビ業界に入った人とは、一緒に仕事をするのがやりにくいとか。
やりにくい人には2種類いて、まずは映画界をかじっただけなのに、エラそうに威張る人。
フィルムとヴィデオは違うのに、その特性も知らずに適当な数値を言って、でも威張っている人はやりにくいそうです。
逆に映画界で活躍してからテレビ界で仕事をする人も、別の意味でやりにくいとか。
そういう人に限って、物凄くヴィデオ撮影の勉強もしてくるので、細かくて指示も厳密なので大変なのだそうです。
ただ頑固なだけではなく、どうしても無理な場合は臨機応変に対応してくれるので、こちらが勉強になるとおっしゃっていました。
それは本当の意味で仕事が出来る人ですね。


映画界では撮影監督という言葉がありますが、そういう人はなんのかんので照明も結構口を出すそうです。
邦画界では「撮影」「照明」と役職(と言うのでしょうか)が分かれているのに対し、洋画では撮影も照明も含めて「撮影監督(俗に言うDP=Director of Photographyですね)」と呼ばれる人が撮影を統括しています。
それにフィルム撮影のフォーカス・オペレーターは上手い下手がはっきり分かれるとか。
上手い人は対象物を目視だけでキャメラのフォーカスを手動でピタリと合わせられる、神業のようなことを出来る人がいるそうです。
そういえばスタンリー・キューブリック映画の『バリー・リンドン』や『シャイニング』でフォーカスやってたダグラス・ミルサムって、『フルメタル・ジャケット』で撮影監督に昇格していましたね。
この人もフォーカス・オペレーターとして物凄く優秀だった、と聞いたことがあります。


屋外では撮影用のクレーンまで来てかなり壮観でした。
チェック用映像をここで見たのですが、かなりキメの映像になっていたのではないでしょうか。
これは放映時の出来上がりを観るのが楽しみです。


2階左側の部屋は、そのクレーン撮影時に部屋内部が多少映るということで、かなり手が加えられています。
まず窓は90度しか開かないのにセット版ではもっと開くということで、私の許可を得てから一旦ネジまで取り外し、表裏逆にしてテグスなどを使って補強しつつ取り付けていました。
内装は女の子の部屋ということで、恐らくスタジオ・セット用のと同じ小道具でしょう。
鏡台が置かれています。

さらには偽のドアと壁も置かれています。

劇中の部屋に比べて半分程度の床面積しかありませんが、こういったこだわり装飾で違和感無く撮られていると良いですね。
これも放映時の仕上がりが楽しみです。


時間と予算という厳しい制約がある中でも、細かい箇所にまでこだわる姿勢には頭が下がります。
例えば玄関のドアはスタジオ・セットのものも、我が家のものとそっくり。
どこかで買って来たのですか?と訊いたところ、似せて作ったとか。
こういった工夫で作品世界を作り上げているということなのでしょう。


さてホームシアターはというと、女優陣の控え室&メイクルームになっていました。
遮光カーテンもあるので、なるほど衣装替えにも最適かと。
キャンプ用テーブルを使い、向かい合わせに2人の女優を同時にメイク出来るようになっています。
テーブルの真ん中に、向かい合わせに鏡が置かれていますね。
これは合理的です。


どの設備も、素早く効率的に準備が出来るようになっているのが印象的でした。


全ての撮影が終了したのは23時過ぎ。
いつもながらのあっと言う間の撤収は見事でしたが、朝から深夜近くまでの長丁場は、皆さん大変だったことでしょう。
そんな忙しい中で、色々と根掘り葉掘りの質問に親切にお答え下さって、ありがとうございました。


さてそんな中、主演男優と長々と映画談義転じて演技論まで聞く事が出来てしまいましたが、それはまたの機会にご紹介しましょう。