days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Ratatouille


映画の日にはもう1本、期待のピクサー新作を観に行きました。
ブラッド・バードの脚本&監督作品、『レミーのおいしいレストラン』です。


ピクサーの定番として冒頭に付けられた短編は『Lifted』。
サウンド・デザイナーとして高名なゲイリー・ライドストロームの初監督作品で、サウンドも彼自身が担当しています。
宇宙人のアブダクションをネタにした台詞無しの映画は、そうか、宇宙人もアブダクションの練習をするのか・・・という大爆笑映画。
オチも綺麗に決まって大いに笑わせてもらった後に、いよいよ長編の始まり始まり。


ピクサーにしては珍しく1年で完成したというこの映画。
企画が停滞していたのが、バードが参加してから急ピッチで進んだということですが、さて出来栄えは如何に。
北米では大好評&大ヒットでしたが、日本では結構評価が分かれていました。
実際に観てみると、私はこの映画はひょっとしたらピクサーの最高傑作ではないか、と思いました。


パリの厨房を舞台に、料理の才能があるネズミが、料理の才能の無い見習いコックと共に成功を収めていくという内容。
派手な場面など無く、地味な展開と言えばそう。
大体にして、厨房にネズミだって!?と拒否反応さえ出そうな設定です。


しかしここには「マンガ映画」ならではの登場人物描写、映像、それに楽しさが満載しています。
序盤のおばあさんに追われるくだりのおかしさと迫力。
主人公のネズミ、レミーが、初めて厨房に入ったときの高揚感と臨場感。
終幕のハラハラドキドキ、そして一度落としてからの皆が幸福な大団円。


どれも「マンガ映画」ならではの手法で描かれたもの。
最新のCGI技術を用いながらも原点を忘れないところに、ピクサーの強みがあるように思えました。


いや実際、背景の超リアリズムでありながら、ちゃんとマンガになっているところや、CGI映画初と言っても良いくらいに食べ物が美味しそうな質感など、高度な技術に裏打ちされて製作された映画には違いないのです。
それでもこの映画がCGI見本市ではなくマンガ映画たり得たのは、ピクサーとバードの底力でしょう。
エンドクレジットの「モーション・キャプチャーは使っておりません」などという表示も、近年のCGI映画へのささやかな抵抗と言えましょうか。
こういったホネのあるところも、ピクサーブラッド・バードらしい。


ブラッド・バードは前作『Mr.インクレディブル』という佳作がありましたが、あちらの段取りが完璧なやや遊びの少ない作りに比べて、こちらはどこか余裕のある作風。
構成や細かい作り込みも素晴らしく、悪役である筈の料理評論家(ピーター・オトゥール名演!)までもが魅力的なこの作品。
その評論家が言うラストの台詞も素晴らしい。


声優では主人公レミーパットン・オズワルトが良かった。
感情の起伏も豊かで知的で、感情移入してしまいます。
無論、人物の設定や描き込みがしっかりされているからですが、声優の力もあるように思えました。
悪役陣では貫禄満点なオトゥールだけでなく、厨房でのイビリ役イアン・ホルムも良かった。
小心シェフ振りが可笑しい。



評論家の台詞通りに、観客を裏切らない映画なのです。



マイケル・ジアッキーノの音楽がノリノリで楽しかったことも付け加えておきましょう。