days of cinema, music and food

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The Bourne Ultimatum


続篇が出る度に映画の完成度が徐々に上がっていくという稀有なシリーズが、このジェイソン・ボーン・シリーズ。
当然ながらこの第3作『ボーン・アルティメイタム』も期待していたのですが、いやはやこれは凄い出来です。


第1作『ボーン・アイデンティティー』は小ぶりでキレ良くとも、段取り的な作品でした。
収穫はシャープな動きを見せるマット・デイモン
意外性とカッコ良さで、『スピード』のキアヌ・リーブスが出て来たときのような印象でしたね。
やはりアクション・スターは若さも大事だと思いました。


続く第2作『ボーン・スプレマシー』は監督がポール・グリーングラスにバトンタッチ。
ここで映画に加速が付きました。
神経症的な手ぶれキャメラワークとカッティングが醸し出す臨場感は、現実そのもの。
クライマクスの大カーチェイスの爆発的緊張感も含め、鑑賞後は大満足のアクション映画となっていました。
ハードでリアルなアクション描写の影響力は、本家スパイもの『カジノ・ロワイヤル』にまで及んだというのも面白い。


同じくグリーングラスが監督した本作は、前作同様に映画開始と同時に緊張感が疾走する感覚を忘れていません。
しかし前作のような爆発的クライマクスは用意されていないのです。
ジェイソン・ボーンと”父”との再会、緊張の弛緩。
その後すぐに映画は緊張感を取り戻しますが、それも小ぶり。
それでも一見乱暴に見える映像がそうであるように、ドラマ性も用意周到に計算されているのに気付きます。
だからラストで見せるジュリア・スタイルズが浮かべる笑みに、観客は安らぎと同時にボーンと別れる寂しさを感じることが出来るのです。
エンドタイトルで流れるMobyのテーマ曲も、折角御馴染みになったのに、これでお別れとは。


映画は幾つもの素晴らしい見せ場を用意しています。
中でも2つの場面が抜群に優れていると思いました。


1つは前半にあるロンドンはウォータールー駅での、頭脳戦とも呼ぶべき追跡場面。
もう1つは中盤にあるタンジールでの肉弾戦とも呼ぶべき追跡場面。
緊張感とアドレナリンが沸騰する手に汗握るサスペンス/アクションに、思わずのけぞりそうになります。
特に前者は言論の自由を圧殺しようとするCIAへの怒りすら感じさせ、強烈な場面となっています。
エシュロンを前面に出したのも映画に恐怖感を与えています(何かの映画でも使われていた気がしますが)。


マット・デイモンは身体が動くし、無名の役者たちが演じる殺し屋たちも魅力的。
ボーン抹殺に執念を燃やすデヴィッド・ストラザーンは役人っぽいし、その上司であるCIA長官役スコット・グレンは底知れぬ闇を抱えているようで適役。


そして忘れていけないのが女性達。
1作目のフランカ・ポテンテや、全作出演のジュリア・スタイルズ、前作に引き続き出演したジョーン・アレンらは、どれも個性的だけれども地に足が付いている役どころ。
特に後者2人が演じる役は私生活はまるで分からないものの、人間味が感じられます。
彼女達に対してこのシリーズに登場する男たちは、同じCIAに属していても大方人間味が欠落した冷血になってしまうというのも面白い。


さぁて、これで打ち止めとは残念。
しかし最近になってマット・デイモンポール・グリーングラスも、続篇製作に含みを持たす発言をしています。
ボーンの自分探しの旅は終結したので、今度は新しい着眼点で続篇が製作されたら・・・と夢想せずにいられません。


ボーン・アルティメイタム [DVD]

ボーン・アルティメイタム [DVD]


戸田奈津子の意訳字幕には相変わらず違和感を感じたことも申し添えておきましょう。
これは彼女だけではなく、洋画字幕製作工程の問題でもあるのでしょうけれども。
でも妙な意訳はやっぱり目立つゾ。
DVDもしくはHD盤では直してもらいたいものです。