days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Le Scaphandre Et le papillon


潜水服は蝶の夢を見る』が近所のシネコンにようやっと来てくれたので、金曜レイトショーに出掛けました。
客の入りは4割程度。
この手の映画の金曜夜のシネコン上映にしては、中々の入りと言えましょう。
話題作でしたし、見逃した人が駆け付けたと見ました。


映画は42歳で脳梗塞で倒れた『ELLE』の編集長、ジャン=ドミニク・ボビーの視点で描いたもの。
彼は意識も記憶も正常なのに、まるで身体の自由が利かないという「ロックト・イン・シンドローム」という珍しい症状になった彼は、唯一動かせる左目の瞬きを使って本を書き上げます。
それが本作の原作となっています。


主人公を演じるマチュー・アマルリックは、スピルバーグの『ミュンヘン』で初めて知りましたが、良い俳優ですね。
最初はロマン・ポランスキーの親戚か?と思わせる程のルックスでしたが。
あちらの得体の知れぬ雰囲気も良かったのですが、こちらの殆ど内面の声だけの演技(だって、無表情なのですから)も素晴らしい。
新作のボンド悪役もきっと面白くなっているのではないでしょうか。


この映画で面白いのは、その主人公の籍を入れていない妻役のエマニュエル・セニエが、本物のポランスキー夫人だということ。
偶然なのでしょうけれども。


その『ミュンヘン』の女殺し屋役で強烈な印象を残したマリ=ジョゼ・クローズが、言語療養士役で出演しています。
ナオミ・ワッツ似の女医だろうが、何だろうが、手を出せないので悶え苦しむのがフランス人で可笑しい。


そう、この映画に出てくる女性は皆美人で知性がある人ばかり。
子供がいても愛人が何人も出て来るのもフランス人だねぇ、と納得してしまう。
勝手気まま(に見える)生き様であっても、いざ死に近い体験をすると、人は人生を振り返る。
そんな心理がよく描けていて、とても感銘を受けたのでした。


ジュリアン・シュナーベル監督作品は初めてでしたが、映像的にも面白い。
閉じ込められた主人公の主観映像が非常に効果的で、観客を一種閉所恐怖症に近い擬似体験をさせます。


主人公の父親役マックス・フォン・シドーの滋味溢れる演技が心に残ります。
肉体に閉じ込められた息子と、足が不自由でアパートに閉じ込められた父親。
会いたくても会えない、言葉を交わしたくても直接交わせない。
こういった心理が伝わる素晴らしい場面です。