days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

I'm Not There.


ボブ・ディラン初公認の伝記映画『アイム・ノット・ゼア』を観に行きました。
公開2日目の日曜15時15分からの回、小さめのシネコン小屋は4割の入り。
思っていたよりも入りが良いのは、話題の映画だからでしょう。
いやいや、こういったアートフィルムが人気なのも結構なことです。


監督トッド・ヘインズはお初です。
前作『エデンより彼方に』は見逃していたので。


さて話題なのは、ディランを6人の俳優が演じている、というもの。
この偶像の分割化は徹底していて、場面によっては黒人の少年だったり、女優のケイト・ブランシェットが演じていたりで、人種・性別さえもお構いなし。
キュビズム映画と言えます。
つまりは様々な性格・事件をそれぞれ別の俳優に演じさせることによって、ボブ・ディランを立体的に描こうという野心的試み。
中々面白い。


一番ドキリとしたのは、やはりブランシェット。
登場した瞬間は、「あぁ、ブランシェットだなぁ」と思ったのに、仕草や言い回しが本物そっくりに見えてしまいました。
映画が進むに連れてこちらも慣れて来たからか、ブランシェットが演じているディランに違和感は無くなって来たのですが、いやいや、アクセントの天才の彼女らしい。


それにしても、つい先日亡くなったヒース・レジャーが登場すると、残念な気持ちでいっぱいでした。
まだ20代半ばで若く、有望な俳優だったのに。
これはジョーカー役の『ダークナイト』を観に行かねばと、改めて決意した次第です。
元パートナーのミシェル・ウィリアムズも出ているのですよね。
他にもクリスチャン・ベイルなど、ご贔屓の役者が出ていました。


私自身はディランの音楽に特に詳しくありません。
好きな曲や知っている曲はあります。
それでもこの映画が印象に残るのは、個人とは一体何か、という普遍的な問題に切り込んでいるように思えたからです。
人はそれぞれ、相手に期待される自分を演じているのではないか。
そういった枠組みを意識・無意識に作り上げて社会生活を営む人が多い中、ディランのように自らを破壊し、あるいは責任から逃げている人間は、文字通り放浪者、アウトローなのでしょう。
劇中がリチャード・ギアが演じるビリー・ザ・キッドは、ディランが音楽担当と出演をしたサム・ペキンパーの西部劇『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』に単純に重ねているだけではないのでは。
人がアウトローに憧れるのは、皆、時々そういった社会の枠組みに疲れているときがあるからでは。
ディランが法の枠外という意味ではなく、一般的な社会の枠組みから外れている点でアウトローだとすると、だから魅力的なのではないか。
そう思えて来ました。


これは十分に観る価値のある映画です。