days of cinema, music and food

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Eastern Promises


はいはい、大期待のデビッド・クローネンバーグの新作『イースタン・プロミス』に行って来ました。
ラゾーナ川崎シネコンは日曜昼過ぎの回は9割の入り。
R-18という観客が制限される興行的に不利な状況であっても、やはり注目度が高い映画だからでしょう。


さて映画は、この日記でも度々紹介している前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』同様に傑作でした。
冒頭のいきなりな暴力描写や流血描写に度肝を抜かれますが、後は落ち着いたタッチ。
この淡々とした、無駄を排した、すっかり枯れた演出に対して好悪分かれそうな気もしますが。
確かに往年のグログロ官能SFホラーに対して、すっかり「一般にもとっつきやすい」映画監督になってしまった感はありますが、流血描写やテーマの骨っぽさに、クローネンバーグらしさを見出してしまうのはファンゆえでしょうか。


特に誰もが強烈に感じるであろう、ヴィゴ・モーテンセンの異様な肉体は、肉体の変容をテーマに撮って来たクローネンバーグらしいのでは。
いくら本物のロシアン・マフィアが全身刺青を入れているからと言って、あの異様さはこの監督ならではないでしょうか。
それに死体が登場する度に、微妙に腐敗していっていたり、グロ描写は細かい。
これもクローネンバーグらしいこだわりに思えました。


クローネンバーグ好みのガイコツ俳優ヴィゴ・モーテンセンは今までで一番良かった。
非情な中にも優しさを見出せるヤクザ・・・いや、マフィア役。
静の演技も良いですが、映画史に残るであろう全裸での立ち回りも大熱演。
無修正で日本でも映画が観られる時代になって本当に良かった。
いやいや、別にモーテンセンの一物を見たいのではなく、あれはヘンな修正はもとより、「隠す」アングルで撮られていては、あそこまで生々しい迫力満点のアクション場面に出来上がらなかったのではないでしょうか。
唸り声を上げる男たち。
刃物の痛みと流血。
これは噂に違わぬ凄まじい場面です。
思っていたよりも短いのですが、これだけ迫力があるのなら、もう十分です。


ご贔屓のヴァンサン・カッセルのダメ息子振りも良かった。
しかしこれも贔屓のナオミ・ワッツは影が薄い。
マフィアの男どもの強烈さに、一般人はやはり普通に見えてしまうからでしょうね。


ラストショットも印象強い。
あれは組織の変容「前」なのか、「後」なのか。
恐らく後者なのでしょう。
そう考えると、「肉体の変容」=「人間の変容」=「組織の変容」とも受け取れ、やはりクローネンバーグらしいと思ったのでした。