days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Dark Knight


鑑賞後、いつまでも心に絡み付く映画があるとしましょう。
「余韻を引く」などという言葉もありますが、そうではなく、それ以上に色々な意味で尾を引く映画。
心と頭にまとわり付いて離れない映画。
心理面では強烈な印象を残し、観客の思考回路にパンチを食らわすような映画。
本日の先行上映で観て来た『ダークナイト』は、正にそのような映画です。


クリストファー・ノーランのよる前作『バットマン ビギンズ』は、個人的には『スパイダーマン2』と並ぶアメコミ映画の傑作だと思っていたのですが、まだまだ上がありました。
複雑なプロットと心理を扱った『ビギンズ』以上に、こちらは込み入った心理と倫理、予想も出来ない展開を見せながら漆黒の闇を突き進み、衝撃的なラストを迎えます。


今年は『ノーカントリー』といい、これといい、純粋悪を描いた上質な映画の当たり年のようです。
本作でヒース・レジャーが演じた、こちらの神経をキリキリ締め上げて悲鳴を上げさせそうな悪党ジョーカーは、他人を不幸に落とし、殺し、それを自らの糧とするような男。
犯罪者になった動機や、裂けた口、ピエロのようなメイクアップの由来も含めて正体不明なのが不気味です。
彼と対峙するのが、The White Knightと称されるゴッサム・シティの検事ハーヴィー・デント、朴訥としながらも現実的な対処を行うことのできる警官ゴードン、それにバットマンを加えた3者です。
今回から新登場となったデントは、理想と正義に燃え、一部市民から攻撃されているバットマンの理解者でもあります。
そんな彼に助力を申し出るブルース・ウェインが、ゴッサムの守護者はバットマンからデントに引き継ごうと思うのは当然なのです。


一方の悪は、ジョーカーに加え・・・おっと。
ここから先は言わない方が良いでしょう。
物語は善悪の境界線が曖昧であると描き、ヒーローとは、善とは、悪とは、といった重いテーマを描き切ります。


前作よりもさらにシリアス路線を進めた本作は、途中で「そうだ、これはバットマンの映画だったんだ」と自分に言い聞かせてしまった瞬間もあるくらいにリアリズムで描かれています。
アメコミものの夢や爽快感を求める向きには全く向いていない映画ともなっています。
重量感満点に描かれる幾つものアクション場面も、派手ではありますが、爽快感とは違う志向でした。
この映画、アメコミ・ヒーローを題材とした、大型犯罪サスペンス・アクションとなっているのです。
アメコミ映画でこのアプローチは、恐らく初めてではないでしょうか。
このような離れ技を成し遂げたスタッフには頭が下がります。


面白いのは、何箇所かマイケル・マンの傑作『ヒート』を思い起こさせる場面があるところ。
中盤の見せ場でもある大カーチェイスにおける大型トラックによる襲撃場面もそうですが、冒頭の銀行強盗場面でウィリアム・フィクトナーが登場しているのも、その目配せなのでしょうか。


バットマンブルース・ウェインに救済が訪れそうな瞬間もありますが、それも儚い一時のこと。
混乱と恐怖に叩き込まれたゴッサム・シティを救うべく、四方八方手を尽くし、仕舞いには倫理的には「正義」の一線を越えそうにながらも、最後に彼が選んだ己の道は、険しく、哀しい。
このラストには鳥肌が立ちました。


朝9時半からの回は、ポケモンやポニョ目当ての親子連れでごったがえすシネコンの中でも、小さい方の小屋での上映。
早い回だからでしょうか、4割程度の入りとは少々寂しい。
大画面で是非、ご覧になってもらいたい大傑作です。