days of cinema, music and food

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To Live and Die in L.A.


先日の安売り(?)で購入したBlu-ray Discの内の1枚を見終えました。
ウィリアム・フリードキンの1985年作品『L.A.大捜査線/狼たちの街』です。
以前に観たのはテレビ放映時、20年も前のことです。


親友かつ先輩である相棒を惨殺されたシークレット・サービス・エージェントが、犯人である偽札偽造犯を追跡する話です。
と書くと真っ当な刑事映画(刑事じゃないけど)のように思えますが、私怨から追跡するので、捜査も段々とマトモじゃなくなってきます。
証拠の窃盗から始まり、偽札犯に近付く資金入手の為の強盗と、違法行為もエスカレート。
新しい相棒(ビル・パンコウ)は彼の単独捜査に恐れおののきます。
って、「大捜査線」じゃないじゃん。
邦題に偽りアリ、です。
そして遂には・・・と、終盤の展開は当時としてはかなりショッキングではなかったでしょうか。


北野武の監督デヴュー作『その男、凶暴につき』への影響も大きい作品として、一部映画マニアには知られていますが、ナルホド、北野作品がかなりパクっています。


フリードキンとしては、自身の代表作にして大傑作、大ヒット作である『フレンチ・コネクション』の成功よもう一度、との思いがあったのかも知れない本作。
ハードボイルドタッチの冷酷非情なストーリー展開に、冷徹な登場人物描写。
根性刑事ものであり、また中盤にはカーチェイスという見せ場もあり、かなり『フレ・コネ』を意識したのではないでしょうか。
でも捜査ものとしてはかなり粗っぽく、カーチェイスの迫力も『フレンチ・コネクション』には及びません。
何しろ捜査の過程はかなりすっ飛ばしで、何故この証人もしくは関係者に行き着いたのかとかがよく分かりません。
これは捜査の過程に興味がなく、ただただ男たちの行動を描くことに映画の焦点が当たっていることを意味します。


主人公チャンス役はウィリアム・ピーターセン
最近の『CSI:科学捜査班』に比べてスリムだし、足を使った追跡場面や正面全裸を見せてなども含めて、初の主演映画ということもあってか、身体を張った大熱演。
このチャンスは命知らずの男で、序盤には鉄橋からのバンジージャンプを見せてその性格を端的に表わします。
バンジージャンプは当時はまだ日本では知られていなかったと思うので、リアルタイムで見たらかなりインパクトがあったのではないでしょうか。
私にとってピーターセンとは、本作と『刑事グラハム/凍りついた欲望』(『レッド・ドラゴン』最初の映画化作品)という、スタイリッシュだけれども、決して成功はしていない捜査官映画の主演俳優なのです。


ピーターセン以上に目立っているのが、悪役のウィレム・デフォー
顔が真っ白なのは今と変わらずですが、とにかく若い。
こちらもクレイジーな男で、描き上がった自作の油彩画に火を放ったりしています。
冷酷非情で裏切り者を許さない男なのですが、悪役として奇妙な魅力があります。


正直に言ってピーターセンよりもデフォーの方が強烈なので、ピーターセンが熱演していても霞んでしまうという欠点があります。


この2人の男には、それぞれ情報屋とダンサーという美女の愛人が居て、それぞれの扱いが対照的。
捜査官は単なる情報屋としか見ていないのか、非情な言葉を吐きます。
彼女の方は捜査官を好きなようなのですが、彼の方は結構邪険に扱っていて酷いもの。
身体と情報だけが目当てに見えます。
偽造犯の方はダンサーの愛人を大切に扱っており、時折自分の計画に巻き込んだりするものの、パートナーとして見ているようです。
情報屋のダーラン・フリューゲルとダンサー役デブラ・フューアーはそれぞれ地味目ながらも好演していますが、最近は全く姿を見なくなりましたね。


男女4人共に全裸になってのセックスシーンもあるのですが、フリードキンはこの手の描写がやはり下手。
そもそもそういった場面が本作に必要だったのか、という気もします。
氷の微笑』で大当たりを取ったジョン・エスターハス脚本による『ジェイド』というエロティック・スリラーも撮っていますが、当時はセックスシーンを過激にすると張り切ってコメントしていたものの、全く下手なものでした。
同作で一番素晴らしかったのは、やはりカーチェイス
人ごみの中を2台の車がじりじりと追いつ追われつという、スリル満点の場面でした。
やはりフリードキンはバリバリの男性派監督なのでしょう。
本作でもショットガンで頭部を撃たれたりの強烈暴力や、あるいは偽札作りの緻密な場面など、リアリズムを基調とした描写が印象に残ります。
フリードキンにとっては、『フレンチ・コネクション』の冒頭で刑事が殺し屋に撃たれて即死する場面などと同様に、観客に衝撃を与えるのが重要なのでしょう。


そのような暴力描写や全裸描写など見ると、最近のハリウッド映画とは違った手触りの作品でもあります。
主演男優が正面全裸を見せる作品など、安全策を講じる尖った作品を輩出しない今のハリウッドでは考えられませんから。


デフォーもそうですが、ジョン・タトゥーロも小悪党役で出ていて、後に有名になる演技派が揃って良い役・良い演技を披露してくれます。
こういった点も映画の見所の1つとなっています。


さて問題のエンディングですが、これは元捜査官である原作者・共同脚本家ジェラルド・ペティヴィッチに無断で変更したという説があります。
原作は未読なので分からないのですが、映画版エンディングはフリードキンのオリジナルのよう。
別エンディングは本ディスクには残念ながら未収録なのですが、北米盤DVD-VIDEOには収録されています。
Youtubeにアップされていたので、劇場版未見の方はご覧にならないことをお薦めします。
劇場版に関してもネタバレになりますので。

劇場版の方がしっくり来るのは確かですね。
もう一つのエンディングはちょっと腑抜けたような・・・
映画全体としては出来が良いとは言えない、いびつな怪作だと思いますが、この終盤の展開もあって強烈な印象を残す映画になったのだと思いますし。


Blu-ray Discとしての出来ですが、まずは画質はこれでも十分でしょう。
140インチでの投影も全く問題無く、粒状性もあってフィルム上映としているかのよう。
輪郭補正も気になりませんでしたし、見所でもある初期ヴィム・ヴェンダース作品の撮影監督ロビー・ミューラーによる撮影も、正確に再現されているのではないでしょうか。
カリフォルニアの陽光を見るに付け、やはりフリードキンとしては異色の映像作品でもあったとの感を強くしました。
ボカシやモザイクなどの修正が一切無いのも嬉しい。
音は低域など物足りないですが、これは製作年度を考えると仕方ありません。
サラウンドは殆どが音楽だったように思えます。


特典は殆ど無く、予告編のみ。
先に書いたような北米盤DVD-VIDEOと同じものを収録してもらいたかった。
ほんと、FOXはBD作品の特典の手抜きが酷いですね。
こういった作品でこそ、音声解説やらドキュメンタリやらが見たいのに。
もっとも、代表作の『フレンチ・コネクション』ではなく、こっちが何でBDで出たのか理由は不明ですが、出るだけでも有難いのかも。
かなりマイナーな映画でもありますので。


サウンドトラックはワン・チャン(Wang Chung)が担当しています。
80年代ポップス・ファンには、『Everybody Have Fun Tonight』や『Let's Go』などの大ヒット曲で御馴染みですね。
主題歌のヴィデオ・クリップもあって、フリードキンも2分30秒くらいに登場しています。
コンソール真ん中にいる、大きいメガネの男性がそうです。

この頃は3人組だったのですね。
しかもイギリスのミュージシャンとは知らなかった。
サウンドやこの映画での起用で、てっきりアメリカのバンドかと思っていました。
この曲が流れる冒頭がまた、カッコ良いのです。


歌も音楽も80年代調。
ですから、ちょっと古めかしい装いの映画に見えてしまうかも知れませんが、今観ても異色で強烈なサスペンス・アクションなのです。

LA捜査線 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

LA捜査線 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

To Live & Die In L.A.: Original Motion Picture Soundtrack

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