days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Shine a Light


マーティン・スコセッシの新作ならばと、『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』を観に、劇場まで駆け付けました。
天皇誕生日の23日夜は、20人ほどの入り。
年頃の娘さん含めた3人家族も居ましたが、娘さんがストーンズ好きだったのかなぁ。


曲は幾つか知っているものの、私自身はストーンズのファンでは全くありません。
しかしストーンズを自作で使うスコセッシは大好き。
グッドフェローズ』や『カジノ』といった現代ギャング映画での絶妙な使い方は、どれもとてもカッコ良かった。
これみよがしな移動撮影と共に、ストーンズの持つパワフルな曲が非常に効果的だったのは、未だに記憶に鮮明です。


さぁて、このコンサート映画を楽しめるのか、注意力が削がれない劇場での鑑賞とは言え、少々自分自身で疑問だったのも確かです。
しかし結論から申し上げると、これは劇場で観て良かったと思える作品でした。


映画はコンサートからは始まらず、今回の映画の為にマンハッタンはビーコン・シアターでのセット作りなど、準備段階をモノクロで描いて始まります。
コンサートでのセット・リスト(曲目リスト)が届かない、曲が分からないとキャメラの準備もどうしたものか、と切羽詰るスコセッシと、そんなのまだ決めてないよー、とばかりのミック・ジャガーの対比も可笑しい。
2人の電話を介したコミュニケーション不全も面白く、いつもてんぱっているかのようなスコセッシが、さらに早口でてんぱっているのが笑えます。
ドキュメンタリにしては出来過ぎですが、この掴みからして『アフターアワーズ』を思わせるスコセッシ調です。
つまりは笑いと緊張が団子になって、一緒くたになって転がる名調子。
そっか、転がる石という名前のバンドを扱った映画に相応しいですな。


ギリギリになってセット・リストも届いた、さてコンサートも開始!とばかりに『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』からいきなり演奏大爆発。
ミック・ジャガー独特の踊りと共に、映画自体が観客の歓喜の渦に巻き込まれます。
アップテンポな曲が2つ披露されると、映画はいきなりデヴュー間もないミック・ジャガーのインタヴュー映像へ。
「いつまで続けられるか分からないよ」と答える、若かりし頃のジャガー
いまや皺々になったジャガーの、初々しい顔。
ここではっとさせられます。
年齢の残酷さと同時に、今もまだ魅力的ですらあるジャガーを。


こうして映画はコンサートの合間に、昔のインタヴュー映像(フジテレビ出演時のものもあり)が短く差し挟まれ、アクセントを付けながら進みます。
意外だったのは、スコセッシらしいトリッキーなキャメラワーク、ハイテンションなカッティングが殆ど皆無なこと。
曲自体のセレクションもゆったり目なものも多かったからかも知れませんが、バンドメンバーのゆとりのある表情を切り取り、心地良い。
そこに何を見るかは、観客に委ねられています。
撮影監督はオリヴァー・ストーン作品で名を上げ、近年のスコセッシ映画や『キル・ビル』2部作等も担当しているロバート・リチャードソン
一流撮影監督の元でキャメラ・オペレータを務めているのが、ジョン・トールエマニュエル・ルベツキアンドリュー・レスニー、ロバート・エルスウィットといった、一流撮影監督たち、というのが贅沢です。
スコセッシは組んでみたい撮影監督たちに声を掛けたんでしょうか。
また、彼らが集まるというのが、さすがスコセッシでもあります。


サウンドが何気に凝っていて、奏者が映るとその人物のパートが音量レヴェルが上がっていました。
例えば、キース・リチャーズのギターのパートになると、彼のギター演奏音が大きくなる、という風に。
奏者が映像に映ると、特にサウンド・レヴェルを上げなくとも、その演奏が耳に自動的にクロースアップされるものなのですが、この映画はそれを人工的にやっていました。
そのレヴェルの上げ方も注意すれば気付くという程度なので、演奏の興が削がれることは無いと思います。


先に申し上げたようにストーンズ・ファンでもない私には、中盤は少々間延びした感もありました。
が、総じて満足出来る仕上がりの映画だったと思います。


それにしても、メンバーのスリムな身体にはびっくりです。
チビTシャツを着て、腹筋をちらちら見せ付けるジャガーもそうですが、ロン・ウッドチャーリー・ワッツも、皆60代とは思えぬ平らなお腹。
独りキース・リチャーズが舞台でもタバコすぱすぱ、お腹も出ているのが可笑しかったのでした。