days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Quantum of Solace


007/慰めの報酬』先行上映に出掛けました。
日曜14時35分からの回、シネコンでも大き目の劇場は中央席はほぼ満席で、全体で6割程度の入り。
こういった大作映画は大勢の観客に囲まれる方が、何となく楽しいですよね。


映画はあちこちで触れ回られている通り、傑作『カジノ・ロワイヤル』のラスト後から始まります。
のっけからもの凄いカーチェイスで始まり、その後の追撃アクションと、最初の20分はアクションの畳み掛けで迫力満点。
ひと段落すると、場内の一部でささやかなざわめきがありました。
それだけ圧倒された方々がいた、ということですね。
これがアクション映画初監督のマーク・フォースターの力の入れようも分かるというものです。


そして冒頭から本作の技法の基調が露骨に分かるのが面白い。
その基調とは、カットバック。
前述のカーチェイスが始まるまでの映像もそうだし、いたるアクション場面でこの技法が使われています。
クライマクスのアクションもそう。
2ヵ所での肉弾戦を、それぞれ切り返しで描きます。


カットバックはアクションやスリラーで、緊張や迫力を効果的に高める技法の1つ。
アクション初挑戦のフォースターは、この手法を随所に盛り込みました。
この生真面目振りも、この映画の基調の1つとなっています。
但しこの生真面目振りが映画の足をやや引っ張っている気もしました。
ボンドの吐く幾つかの台詞以外は殆どユーモアの無い、ハードボイルドなボンド映画は悪くない。
いや、むしろ前作に連なるこの路線は支持したい。
それでも余計なものをそぎ落としてハードボイルドであろうと腐心して、映画全体に力が入り過ぎ、映画としての「遊び」(余裕とも言う)が無いのです。


ほぼ全てのショットは短く繋がれ、タイト。
これが上映時間107分という歴代ボンド映画の中で最も短い映画となったゆえんです。
遊びの余裕が無いのは、まるで復讐に燃える劇中のボンドのよう。
上司のM(ジュディ・デンチ)には任務優先を装いながら、恐らくは煮えたぎる復讐の鬼と化した殺人マシーンのボンドを描くゆえ、こういったスタイルを取ったのでしょう。
それでも映画としてのゆとり、緩急はもう少々欲しかったところ。
全体に急急急という展開になったので、クライマクスが弱められてしまったのも惜しい。


弱いのはクライマクスだけではなく、マチュー・アマルリック演ずる悪役もそう。
悪役としての造形に深みが欲しかった。
ボンドガールのオルガ・キュリレンコは美しく、アクションも見栄えがしたのですが、復讐に燃える女としてはやや弱かったように思えます。


肝心のダニエル・クレイグですが、これはもう、すっかりボンドを自分のものにしています。
初代ショーン・コネリーに並ぶ強烈さがあるように思えました。
私はコネリー・ボンドをリアル・タイムには観ていませんので、そこは割り引かなくてはならないとは言え、余裕のある大人のコネリー・ボンドと、獣性剥き出しの若いクレイグ・ボンドの両方を支持したい。
まだまだ暫くはクレイグ・ボンドで新作を観てみたいのです。
新兵器が何一つ登場しなくとも、己の肉体と頭脳で敵を追い求める野生のボンドは、私にとって相当に魅力的なのです。


映画全体は1970年代アクション/スリラー映画を意識していました。
オープニング・タイトルの字体もそうだし、ポスターにもなっている黒いスーツにノーネクタイの白ワイシャツのボンドとボンドガールの2人が、埃まみれで砂漠を歩くところなど、サム・ペキンパーの『ゲッタウェイ』を彷彿とさせます。


前作に連なる物語はとりあえず完結はしたように思えますが、実際にはまだのさばっている悪党もいます。
このシリーズ、予想では全貌を現しつつある謎の組織クォンタムを敵役として続けて行くのではないでしょうか。