days of cinema, music and food

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Revolutionary Road


レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』を観に行って来ました。
公開2日目の日曜だというのに、午後の回は十数人の入り。
タイタニック』以来のレオ&ケイト共演とか、さも純愛路線のような宣伝も功を奏していないようです。


サム・メンデス作品は前作の『ジャーヘッド』を見逃しているので、彼の作品としては久々の劇場鑑賞となりました。
郊外の一見幸福そうなカップルを描いている点で、メンデス作品としては『アメリカン・ビューティー』の系譜に連なります。
但し、あちらがブラック・コメディだったのに対し、こちらはシリアス・ドラマ。
それも正面切って描いているので、観ていてかなり「痛い」映画となっています。
純愛路線を期待して観にきたら仰天するかも。


1955年を舞台にした映画は、自分たちは特別なカップルと思っていたのに、実は平凡な生活をしている。
そこに埋没するのは嫌とばかりに、抵抗しようとする男女を主人公にしています。
夫は優秀だと自分を意識しているのに、特にやりたいことがあるでもない。
妻と子供を養う為だけにつまらない仕事をしている毎日です。
一方の妻は、市民劇団で女優として活躍したかったのにも関わらず、不評で活動取りやめ。
平々凡々な日々に埋没するのを恐れています。


当時の女性たちの結婚後の選択肢の少なさを考えたら、妻の方が切迫感が強いのは当然でしょう。
夫は刹那的な刺激を求めて浮気をしますが、妻にはそれさえも出来ない(後でするけれど)。
よって深刻度は妻の方が高いのです。


レオナルド・ディカプリオは神妙かつ終盤の大喧嘩場面での熱演など、かなり力が入った演技。
しかしこの映画は、文句無しにケイト・ウィンスレットの演技が圧倒的です。
ややエキセントリックな行動をしたかと思いきや、終幕の場面、窓辺に立って虚無の入り混じった表情を見せるなど、振幅の幅も広く、さぞかし演じ甲斐があったことでしょう。
彼女の演技力の前では、ディカプリオの演技が悪くないにも関わらず凡庸にさえ見えてしまう。
また、このカップルの本質を見抜いてあけすけな発言をする、精神を病んだ数学教師役マイケル・シャノンも絶品。
出番は少ないのに場をさらう強力な演技です。
この男の母親を演じるキャシー・ベイツも素晴らしく、いやはや全く、この映画は現代のトップレベルの俳優たちの演技が観られる点で、素晴らしく見応えがある作品です。


ややもすれば派手で収拾の付かない「目立とう演技合戦」になりそうなところ、サム・メンデスはちゃんと「監督」しているのが何気に凄い。
この人の役者たちから良質な演技を引き出す術は、見事としか言いようがありません。
またメンデスは演劇出身だと言うのに、映像感覚も秀でたものがあります。
アメリカン・ビューティー』の空を舞うビニル袋が美しかったように、本作もさりげなく美しい映像で占められています。
特に終盤の大喧嘩の後の朝食場面。
静かで美しく、しかし実は恐ろしい場面は、俳優達の演技もあいまって、忘れ得ぬ場面となりました。


正直に心情を吐露し合った夫婦は不幸のどん底に陥り、一方で相手の話を聞き流す夫婦はこれからも幸せな結婚生活を続けていくであろうと示唆するラスト。
表層的な理解であっても、上手く行く人は上手く行くということか。


結局のところ人生は過酷であり、また個人が幸せを何と定義するかによって幸せにもなれば不幸せにもなれる。
そして自らの人生を良い方向に変えるべく大胆な決断を下したとしても、それが最悪の結末を招くこともある。
人生は不公平である。
そんなテーマもあったように思いました。


観終えた後からじわじわと印象が強い映画なのですが、しかし心に響くかどうかはまた別。
私には映像や美男美女も含めて、美し過ぎたのでしょうか?