Che: Part One
チェ・ゲバラの伝記映画第2部の公開も始まったこの日、第1部の『チェ 28歳の革命』を観に行って来ました。
シネコン内の小さめの小屋、17時過ぎの回は7割の入り。
意外なと言っては失礼ですが、ゲバラ映画でしかもスティーヴン・ソダーバーグの映画でこれだけ話題を呼ぶとは思いませんでした。
閉塞感のある時代に似つかわしい映画の主人公、なのでしょうか。
映画は予想通り、ソダーバーグらしくストイックな作りとなっています。
1950年代後半に掛けてのキューバ革命を主に、1964年の国連におけるゲバラの演説がモノクロ映像で挟み込まれ、全体を1950年代初頭のゲバラとフィデル・カストロとの出会いの場面でサンドウィッチしている構成となっています。
とにかく徹底しているのが、ドキュメントタッチとでも呼ぶべき描き方。
ゲバラの心象風景はおろか、心理描写さえもばっさり切り落とし、彼の言動のみ描かれています。
しかも政治闘争はまるで登場せず、武装闘争の人としての映画になっています。
ゲリラ戦の日々は、恐らくは怠惰な日常と血も凍るような戦闘に二分されるのでしょうが、信念の人ゲバラにとっては、どちらも革命に生きる自分にとっては大切な時間だったのでしょう。
平時は部下を率いて訓練を行い、時間の合間に書にいそしみ、執筆を行う。
部下だけではなく、自分にすら徹底して厳しい。
それもこれも、圧制の下にある南米を解放していく理想を持つ革命家である為。
ストイックな像を描き出す映画をストイックにしたのは、ソダーバーグの決断。
これは支持出来ます。
淡々としたタッチで大袈裟な描写は微塵も無いのですが、随所に挟み込まれる戦闘場面は緊張感満点。
革命への成功を歩むゲバラを描く画面は、2.35:1のスコープサイズで、ある種壮観な戦争映画としても観られます。
それでも前述したようにストイックな映画は、戦闘場面でさえ途中で打ち切り、高揚感も皆無。
よって映画としてのあらゆる盛り上がりを、意図的に全て排除した作りになっています。
ゲバラと言えば、今やTシャツなどにプリントされているアイコン。
その像を神格化、英雄化することせずに、ただただ事実に即して描こうというこの姿勢。
言動のみが描かれている為に、観客の安易な感情移入を拒む作りになっているのですが、冷徹に近いタッチゆえゲバラの信念が浮き上がります。
結果的に、ゲバラを凄い、もしくは尊敬し得る人間だと観客に思わせる大きな可能性を秘めています。
モノクロの国連関連場面が挿入されるのは、単調になりそうなゲリラ場面に対して効果的なアクセントとなっています。
インタヴューアが登場するのですが、これがジュリア・オーモンドだとはまるで気付きませんでした。
また、カストロの弟(最近、キューバの実権を兄から譲られましたね)役をロドリゴ・サントロが演じているのにも気付きませんでした。
これはスター然とした撮り方をしていないのもあるのでしょう。
主役ベニチオ・デル・トロは熱演ではなく、渋い好演でした。
人間味ある演技でもって素晴らしい。
賞受けするような大袈裟な演技は無いのですが、実在感がある。
元々好きな役者でしたが、益々好きになりました。
この人の演技はこれ見よがしなものが少ないのですが、その良さがこの映画では引き立っているように思えました。
大よその予習もしくは鑑賞後の復習も必要な映画ですし、歴史に残る大傑作でもありません。
つまりは取っ付き易い映画ではないのです。
しかしぎりぎり退屈の二歩手前で踏み止まる映画は、何気に力作ゆえに続篇が観たいと思わせます。
この映画の前日談に該当する『モーターサイクル・ダイアリーズ』もお薦めですよ。
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このときに観た南米の現実に対しての思いが、やがて武闘派に転じていくとは…。