days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Changeling


チェンジリング』公開2日目の土曜日レイトショーに出掛けました。
シネコン内の小規模な小屋はほぼ満席。
午後の回は完売だったそうなので、これも来日したアンジェリーナ・ジョリー効果なのか。
はたまた「泣き」路線広告のお陰か。
とまれクリント・イーストウッド作品がヒットするのは嬉しいことです。


1920年代にいきなり子供が行方不明となったシングル・マザーを主人公にした映画。
まず言うと、内容を知らずに、つまり予備知識無しに観た方が絶対に良い映画だと言えます。
映画の上映前に、後ろの席のカップルがこんな会話をしていました。
男「この映画、静かな映画なんだろ」
女「そうよ」
この男女は、きっともの凄く驚かれたことでしょう。
え、こんな物語だったの!?と。
ですので当blogでもネタバレはせずに書きますが、もし情報をシャットアウトしてご覧になりたい方は読まれない方が良いかも知れません。


単純な感動路線を期待していた向きは、無論そういった感動、涙を流すことの出来る映画という点で満足したかも知れませんが、恐らく予想もしていなかった展開にびっくりした筈です。
と言うのも、イーストウッドらしく闇を描いた作品になっているからです。


映画には2人に象徴される闇が登場します。
1つはジェフリー・ドノヴァンが好演する、L.A.市警の警部に象徴される、権力の闇。
もう1つはジェイソン・バトラー・ハーナーが好演する、養鶏場を営んでいる男に象徴される、人間の闇。
この一筋縄ではいかない闇が並行して絡み付き、その傷跡は映画が終わってからも登場人物の心に残ります。
希望というキーワードに代表される、明るさを持つエンディングであってさえも。
10年前、20年前のイーストウッドだったら後者のみを描いた可能性がありますが、イラク戦争後は保守の立場から現代アメリカ批判を映画を通して行ってきたイーストウッドだけに、権力の腐敗を描かずにいられなかったのではないでしょうか。


そしてこの映画が北米の批評家たちから絶賛といかなかったのも、この内容ゆえでしょう。
実話を元にしているだけに、特に後半は内容もりだくさん過ぎるきらいがあります。
フィクションだったらそぎ落とされていた要素も幾つかあった筈。
しかし重心の下がったイーストウッドの演出は、雑多にならず、落ち着き、観ていて安心出来る手さばきを見せてくれます。
歳を取ると映画のテンポはゆったり、下手すると退屈になる監督も多い中、この人の老練でありながら老いていない技術力は素晴らしいですね。
緊張と感情の盛り上げも見事だし、でも観客の同情を買うようなものではなく、そっと登場人物に寄り添うスタンス。
突き放さず、寄り添う訳でもなく、しかしそっと見つめる。
社会的弱者や少数者に対するいつものイーストウッドの視点でもあります。


イーストウッドは復讐は許されるべきと考えている人でもあります。
映画の後半に描かれるある登場人物の死の場面は、当然として描かれています。
その場には見物客もいますし、まるで西部劇の首吊り場面のよう。
がちがちの保守であり、リバタリアンであるイーストウッドらしいと思いました。


アンジェリーナ・ジョリーはやや大袈裟気味な演技でしたが、求心力がありました。
主人公は実は能動的というよりも受動的な立場なのですが、それでも核としての存在がはっきりしている。
この説得力はアンジェリーナの演技によるものでしょう。
ジョン・マルコヴィッチも、この人らしい演技でしたが、観客の心を落ち着かせる役目を十分に果たしていたと思います。

Changeling【Blu-ray】(2008)

全体に彩度を極端に落とし、ところどころに目立つ色(例えばアンジーの口紅等)を配置する色彩設計
フィルムの粒状も目立たせているので、Blu-ray Discは楽しみですが、人によっては低画質と評価するかも知れませんね。
しかしこの価格でしかも日本語字幕付きなのですから、食指が動くのも当然でありましょう。