days of cinema, music and food

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Frost/Nixon


アルティで食事後、電車にのってTOHOシネマズ 横浜ららぽーとまで向かいます。
お目当ては『フロスト×ニクソン』。
15時45分からの回は30人程度の入りでした。
平日金曜日午後の回にしては、入っている方ではないでしょうか。


ウォーターゲート事件で政治の表舞台から消えながらも、虎視眈々と政界復帰を狙うリチャード・ニクソン元大統領と、彼にインタヴューを申し込んで軽い司会者からジャーナリストへの転身を狙うデヴィッド・フロストとの対決を描きます。


そう、ここでもインタヴューは対決そのもの。
お互いに自分の確固たる目的を抱く者同士。
その激突が眼目となります。


脚本は傑作『クィーン』を書いたピーター・モーガン
あちら同様に異色の人間ドラマを描いていますが、どちらも有名人物の内面に切り込んでいてスリリング。
本作は元々舞台劇だそうですが、映画版はその面影が一切無い、映画らしい映画に仕上がっていて、脚色が相当に優秀なのでしょう。
これは素晴らしい。


ロン・ハワードの演出はユーモアも交えつつスリリング。
上質の人間ドラマであると同時に、上質なスリラーとしても観られます。
インタヴュー場面に入るときの緊張感と高揚。
終幕における人物の抱く落胆。
これは彼の代表作になるのではないでしょうか。


さらに素晴らしいのは達者な役者陣。
特にニクソンを演じたフランク・ランジェラのパワフルな演技は、緩急自在で名人芸の域に達しています。
序盤のどこか脆弱に感じられる老人が、インタヴュー収録になると水を得た魚のようにインタヴュアーのフロストを、観客を圧倒します。
頭脳明晰でありながら何かに取り付かれている、孤独な老人。
大物でありながらも悲哀を感じさせ、強烈な印象を残します。
彼の演技を観るだけでも、十分にお釣りが来ること請け合い。


フロスト役マイケル・シーンは軽薄な小物感を漂わせつつも、焦燥、強靭さを表現しています。
ランジェラとの組み合わせも吉と出ていますね。
舞台版もこの2人が主役だそうですが、これは丁々発止の戦いで見応えがあります。
しかし大ヴェテランのランジェラが格上なだけに、シーンの食らいつく必死さが際立っています。


フロストの心の拠り所となる恋人役レベッカ・ホール
彼女の登場場面は、緊迫した映画の中でくつろげるところ。
知性と優しさをフロストだけではなく、観客をも魅了します。


ニクソンの腹心役ケヴィン・ベーコン
フロストのプロデューサー役マシュー・マクファディン
フロストの調査チームにいるサム・ロックウェルオリヴァー・プラット
ロックウェルが初めてニクソンと会う場面が忘れられません。
全員が全員、高レヴェルの演技を見せてくれます。


見逃せないのは、メディアを描いていること。
端的に表される映像の持つ力は、文字だけとは比較にならないほどのインパクトを持っています。
それは全てが単純化される危険性もあります。
フロストは映像メディアを使って勝利を収め、ニクソンケネディとの討論番組同様に、またも映像メディアに負けました。
これも皮肉なものです。


とまれ言葉の対決を描いた娯楽映画として、これは相当にお薦めなのです。
ロン・ハワード作品の常で、クリント・ハワードも出演しているのでご安心を。