days of cinema, music and food

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"In the Line of Fire" on Blu-ray Disc


ようやっと『ザ・シークレット・サービス』BD版を観られました。
前のプロジェクターであるCine 7LT不調時以来ですから、相当に間が空きました。


原題名は『弾道上に立つ』。
つまりシークレット・サービス・エージェントが銃撃された大統領を守るべく、身を呈して弾道上に立つ、という意味です。


内容はご存知の方も多いでしょうが、JFK暗殺を阻止できなかったことを未だに悔やむ老シークレット・サービス・エージェントが、不適な暗殺犯の挑戦状を受けて大統領暗殺を阻止しようとする、という物語です。
老エージェントをクリント・イーストウッドが、暗殺犯をジョン・マルコヴィッチが演じています。
公開当時はマルコヴィッチの演技が激賞され、アカデミー賞助演男優賞候補にもなっていました。
確かにここでの彼の変幻自在で爬虫類的にヌルヌルした嫌らしさは強烈です。


しかし私は、この映画のイーストウッドも大好きなのです。
傑作『許されざる者』だ大好評&大ヒットを飛ばした余勢を買ってではないのですが、久々に製作にノータッチの映画だからなのか、肩の力の抜けたリラックスした演技が観ていてとても心地良い。
ピアノの前に座ってジャズをちょっと爪弾いたり、女性を口説こうとしたり、リンカーン記念館前の階段に座ってアイスクリームを舐めたり、「彼女が振り向いたら俺に気がある」などとつぶやいたり。
そんな中でふと見せるイーストウッドの笑顔も素敵です。


一方、身体は年齢には勝てずにひぃひぃはぁはぁ、雨中の警護で風邪を引いたりもします。
相変わらずの頑固者なのもいつものイーストウッドらしい。
そんな彼が失態をしでかしたりで、上層部からの理解を得られぬまま、暗殺犯の謎に迫って行きます。


劇場公開当時、芝山幹郎がマルコヴィッチをカメレオン、イーストウッドを巨像に例えていましたが、全く言い得て妙ですね。


映画自体はとても良く出来ていて、渡米後のウォルフガング・ペーターゼン作品の最高作でしょう。
また、イーストウッドが監督の依頼を蹴ってペーターゼンに任せたのも正解でしょう。
当時のイーストウッドでは、ここまでのスリルとサスペンスを盛り上げられたかどうか。
もっともイーストウッドが演出をしていれば、エージェントと暗殺犯をコインの裏と表のように描いたでしょうし、それはそれで非常に興味深かったとは思うのですが。


Blu-ray Discとしては最新作には負けるけれども、元の柔らかい画調を再現していると思いました。
やや黄色寄りの配色は温かみがあります。
LDでは黄色が強過ぎたような気がしますが、こちらはほぼ劇場での記憶に近いように感じられました。
音も結構迫力があります。
冒頭の偽札犯相手の銃撃音や、スリルを盛り上げるエンニオ・モリコーネの音楽など、ついつい音量を上げてしまいます。
台詞もやや汚かったLDよりも随分と綺麗に収録されていました。


ペーターゼンによる音声解説を十数分ほど聴いてみたのですが、彼はレネ・ルッソに相当入れ込んだようですね。
次回作『アウトブレイク』での起用だけでは飽き足らず、『エアフォース・ワン』では大統領夫人役にも起用したかったのだとか。
しかし使い過ぎだとのことで断念、さらに『パーフェクト・ストーム』でも起用ならず。
機会があればまた起用したいとのこと。
もっともこの音声解説はコレクターズ・エディションのDVD-VIDEO収録のものと同じでしょうから、もう何年も前の意見ではありますが。
あと、ジョン・マルコヴィッチが映画でのイメージと違って、撮影現場ではとても愉快な男だ、というのも面白かったです。
この映画で共演したイーストウッドとマルコヴィッチが、『チェンジリング』で監督・出演の関係になるというのも面白い。


本作品、映画としても非常に面白いし、またこの映画がお好きな方はBlu-rayを買っても損はしないと思います。
ペーターゼン、良い脚本に恵まれれば、良い映画を撮れると思うのですけどねぇ。



ところで、冒頭の偽札犯役としてトビン・ベルが出ています。
最近では『SAW/ソウ』シリーズのジグソー役の俳優ですね。
むしろジグソー役のときに「えぇっ、こんなに老けちゃったの?」とびっくりしたものですが。
この当時は『ザ・ファーム/法律事務所』のクライマクスで、トム・クルーズを延々走って追っかける殺し屋役とか、悪役で見る顔でした。