days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The International


もうじき上映も終わりそうなので、『ザ・バンク 堕ちた巨像』に行って来ました。
レイトショウは20人程度の入り。
集客が無さそうなスターが主演ですから、止むを得ないか。


しかし主演は個人的に好きな2人です。
クライヴ・オーウェンは無精ヒゲによれよれのスーツ、相変わらずムサ苦しい感じ。
対するナオミ・ワッツは凛として、これまた相変わらず清潔感満点で美しい。
この取り合わせは良かったですね。


国際銀行の犯罪を追い掛けるインターポール捜査官のオーウェンと、ニューヨーク検事局のナオミ・ワッツが、巨悪に挑むというサスペンス・アクション。
原題名通りに国際色豊かなのは犯罪だけではなく、ロケ地もそう。
ベルリン、ルクセンブルグ、リヨン、ミラノ、ニューヨーク、イスタンブールと舞台があちこち移動し、見た目も宜しい。
世界各地を転々としながら、証人や証拠が次々消されていく中、捜査官たちの奮闘が描かれます。


トム・ティクヴァの演出はタイトでディテールも重視、しかもダイナミズムがあって緊張感が途切れません。
ティクヴァは『ラン・ローラ・ラン』と『パフューム ある人殺しの物語』しか観ていなかったのですが、真っ当なスリラーも取れるのですね。
感心しました。
後半に至るまでは。


映画の前半は捜査の過程も含めて非常に面白いし、ハラハラさせられる場面も少なくない。
これは傑作になりそう、と思わせます。
そして中盤に用意されている、フランク・ロイド・ライト設計によるグッゲンハイム美術館での尾行、転じて大銃撃戦。
これが凄まじい迫力です。
ポスターの絵柄にもなっている螺旋階段状の美術館で、上下階から襲い掛かる2人1組の殺し屋集団。
これを排除しながらの脱出劇となっています。
リアリズムも徹底しているのに、カッコ良い。
ここまで銃を撃たなかったクライヴ・オーウェンが、劇中で初めて発砲する場面でもあるからでしょう。
いよ、ようやくだな!と声を掛けたくなります。
この場面、観ていて痛そうな描写も多いのですが、よくぞこんなのを撮れたものだとびっくりしました。
エンドクレジットでニセ美術館、つまりはセットを丸々作って撮ったと分かりましたが、ここの場面はそれまでの緊張や鬱屈から観客を初めてカタルシスに導く素晴らしいものとなっています。


しかしこの後、映画はやや失速気味となります。
緊張感のある描写もあるものの、やや盛り上がりに欠けてしまいました。
ラスト、正義の裁きが降りたように見えて、実際に悪が裁かれたのは復讐者によってというのも皮肉。
これは面白いものの、映画全体が娯楽映画として撮られているのだから、もっとスカッとしても良かったのではないか、と思いました。


劇中では国際銀行が私利私欲に走る余りにモラルを喪失して悪を撒き散らす設定となっています。
資本主義の行き過ぎが世界大不況を起こしている現在にリンクしていますが、映画自体はそういった風刺よりもサスペンス・アクションとしての色付けが濃い。
面白いものの観終えて釈然としないのは、娯楽と風刺のアンバランスさによるものではないでしょうか。


と言ったものの面白い場面も多いので、Blu-ray Discを買うかどうか、非常に迷いどころでもあります。
音質は余り良くありませんでした。
銃撃音など迫力はあるものの、全体にややノイジーだったのは、劇場の設備によるものなのか。
ハリウッド大作映画に比べると、そういったところは物足りなく感じました。