days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Original Soundtrack "Star Trek: The Motion Picture"


諸般の都合でまで観に行けていない『スター・トレック』。
J・J・エイブラムスの演出はTVサイズになっていやしないかとか、心配はありますが、楽しみにしています。
で、旧シリーズの映画Blu-ary Disc BOXを買われたモリヤンさんのblogを拝見して、私も旧シリーズ再訪をちょいとしてみました。
スター・トレック』サントラCDを聴いてみたのです。


と言っても2009年版ではなく、ロバート・ワイズ監督による1979年版の方。
今は亡きSF専門誌『スターログ』では、「TMP」などと言われた映画です(TMPは副題The Motion Pictureの略)。
正直に言って、ダグラス・トランブルらしい美しい視覚効果と、画面を彩る素晴らしい音楽以外、面白みに欠ける大作でした。
その音楽は私が最も好きな作曲家であるジェリー・ゴールドスミスによるもの。
たまに聴くCDなのですが、何度聴いてもこれは大傑作ですね。
公開当時、TVシリーズのファンから総スカンを食らったというテーマ曲からして素晴らしい。
全編メインテーマ、愛のテーマ(アイリーアのテーマ)、ヴィジャーのテーマのほぼ3つで、手を変え品を変えてのアレンジで押し通しています。
このやり方もゴールドスミスらしい。
カプリコン・1』でも、重厚なメインテーマと愛のテーマの2つで押し通したのを思い出させます。
このやり方でも、映画にとっては非常に効果的。


当時はジョン・ウィリアムズによる『スター・ウォーズ』の大ヒットで、シンフォニックな映画音楽が見直されていたそうです。
大作である本作にゴールドスミスが起用されたのは、私の予想では、ウィリアムズとほぼ同世代(つまり対抗馬)、SFやアクションに強く、しかも監督ワイズとは『砲艦サンパブロ』で組んでいるからなのでしょう。
ゴールドスミスに要求されたのも、やはりシンフォニックなものだとか。
これがワイズの意向なのか、スタジオ側(パラマウント)の意向なのかは寡聞にして知りませんが、何にせよゴールドスミスは要求を跳ね除け、自らの個性を押し出した手法で傑作を書き上げたのです。
ちなみに、ウィリアムズの『スター・ウォーズ』のアプローチはSOWさんのblogに解説が載っており、ナルホドと合点が行きました。


もし同じアプローチをゴールドスミスが本作で取っていたなら、かなり悲惨なことになっていたのではないでしょうか。
この後、ウィリアムズ担当の『スーパーマン』の後追い企画『スーパーガール』を、同じくウィリアムズ担当の『レイダース 失われたアーク』の後追い企画『キング・ソロモンの秘宝』を担当し、ゴールドスミスはウィリアムズの後塵を拝するかのような仕事をすることになってしまいますが、それでも飽くまで自己のスタイルを変えず、しかも上質のスコアを提供し続けた職人魂が、ゴールドスミスらしいですね。


映画音楽作曲家の知名度は、音楽そのものの完成度(如何に素晴らしいメロディを付けるか、如何に画面に効果的になっているか等)よりも、映画そのものの知名度に左右されるようです。
ウィリアムズに比べてややマイナーなゴールドスミスが、もしスケジュールの都合で『スーパーマン』を蹴っていなかったら…等と時折想像してしまいます(『オーメン』で組んだ監督リチャード・ドナーからの依頼だったようです)。
もっとも、もし仮に『スーパーマン』を担当してアルバムも大ヒットを飛ばしたとしても、彼は彼のスタイルを変えなかったとは思いますが。


閑話休題


アルバム1曲目、冒頭の勇壮なテーマ曲からクリンゴンのバーバリズム溢れる曲からして、ゴールドスミスらしい。
この人の特徴としてリズムが前面に出る事が挙げられますが、このクリンゴンなぞ最たるものでしょう。
作曲家本人も余程気に入ったのか、後にカーク船長ことウィリアム・シャトナーが監督したシリーズ第5作『新たなる未知へ』でも、やたら流れていたのが思い出されます(もっとも、映画はかなり不出来でしたし、音楽もやっつけっぽかったですが、能天気な雰囲気は憎めないものがありました)。
クリンゴン艦隊消滅時に鳴り響く不協和音もゴールドスミスらしい。


カーク船長が改装されたエンタープライズ号と再会する場面。
テーマ曲を優雅にアレンジし、且つカークの胸の高鳴り、高揚感を観客に伝えます。
情景描写よりも心理描写に興味を示したゴールドスミスらしい手法ですね。


愛のテーマも典雅で、あちこち顔を出します。
このアルバムでも心安らぐアクセントになっています。
対して、雄大且つ正体不明で不穏な不協和音を多用したヴィジャーの曲も素晴らしい。


私の密かなお気に入りは、アルバムの最後から2番目を飾る『スポック遊泳(Spock Walk)』。
緊張感のあるリズムがらしいのです。


全体的に『スター・ウォーズ』とは対照的に、締まって贅肉の無いスコアが作曲者の個性を良く表わしていると思います。
映像に対して効果的な音楽のあり方をひたすら考え抜いた、ゴールドスミスらしい作品です。


録音は当時かなり珍しかったデジタル。
常に新規技術に貪欲だったゴールドスミス初のデジタル録音作品でもあります(SONY Digital Recording)。
今CDで聴くと、デジタル録音とは言え特に高音質でもありません。
でも十分に聴くに堪える音質です。
20世紀フォックスのスタジオを使用したとクレジットされています。
オケのクレジットは無いので、スタジオ・ミュージシャンたちを起用したのでしょう。


実はこのサントラ、LPも持っていました。
帯には「ロードショー特選」とあったもの。
初めて貯めた小遣いで買ったLPがこれだったのです。
何度も何度も聴いたものでした。
今聴き直しても古びない、やはりこれは傑作なのです。

スター・トレック

スター・トレック



オリジナル・ポスター同様の絵柄を使用したジャケットも嬉しいですね。
イラストは私の大好きな故ボブ・ピーク(Bob Peak)。
公式サイトを是非ご覧下さいませ。
あ、このポスターもこの人が描いたものなのか、と思われる方もいらっしゃるかも知れません。


私の大好きな『エクスカリバー』のポスターや、映画本編はつまらなかったけどポスターはカッコ良い『ローラーボール』などもあります。