days of cinema, music and food

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PATTON also featuring TORA! TORA! TORA!


先日、Dervaさんが『トラ・トラ・トラ!Blu-ray Discご購入されたという記事を読んだので、久々に聴き直したくなって引っ張り出したCDがこれです。
パットン大戦車軍団』と『トラ・トラ・トラ!』の2本の戦争映画カップリング。
作曲と指揮はジェリー・ゴールドスミス、演奏はロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団です。
共に1970年の作品ですが、1997年にゴールドスミスが当時のスコアを使用して自らタクトを振り、再録したもの。
よって音質はサントラ盤よりも良い筈です。


パットン大戦車軍団』はジョージ・C・スコットがパットン将軍を熱演した映画でした。
2冊のノンフィクションを元に、脚色をエドマンド・H・ノースフランシス・フォード・コッポラが担当。
猿の惑星』で大ヒットを飛ばした、まだ若手の方だったフランクリン・J・シャフナーが監督し、アカデミー賞作品賞等受賞しています。
2時間40分ほどのこの映画を観たのは、中学生時代の正月。
今から20数年前の当時、正月のテレビは、過去の名作映画ノーカット放映の宝庫でしたからね。
録画してむさぼるように観たものでした。
そんな中で観た本作は、知っている役者がスコットとカール・マルデンだけという地味な顔ぶれ。
壮大な戦闘場面も前半に集中して後半はドラマ中心となっており、しかもタガが外れた軍人が徐々に軍から疎まれるというものでしたから、邦題から想像した内容とはまるで別物で驚いたものです。
これは邦題の問題ですけれども。
スコットの熱演は素晴らしく、冒頭の演説からハイテンション、ロンメル軍団を叩いたり、ドイツ軍戦闘機相手に拳銃をぶっ放したりと殆ど笑い話のよう。
しかし全体に演出がやや単調でやや退屈を誘われたというのが、当時の感想でした。
シャフナーは『猿の惑星』、『ブラジルから来た少年』の方が良いというのが、当時も今も変わらぬ感想です。


で、そのシャフナーと『猿の惑星』、本作、『パピヨン』、『海流の中の島々』、『ブラジルから来た少年』で組んだのがゴールドスミス。
映画は物足りなくとも、音楽はかなり強烈な印象でした。
オープニング・クレジット。
砂漠のロングショットに重なるのは、「パラパ、パラパ、パラパ、パラパ…」というこだまのようなトランペット。
そこにパイプオルガンが乗って来ます。

  • PATTON (1970) Main Title - Movie Soundtrack By Jerry Goldsmith


虚無的なもの(あるいは狂的なもの)と、宗教的なものの融合。
宗教的なものは、軍隊もしくは国家への忠誠心の象徴でしょうか。
この音色が凄い強烈だったのです。
特にトランペットのこだまは、恐らく聞いた誰もが耳に残るであろう、映画史に残る「音」だと思います。
今更ながら、よくもこんな音を考え付いたものだと感心してしまいました。
こだまから連なり、スネアドラムが重なり、やがてピッコロがメインテーマを奏で、威風堂々と高鳴るホルンから成るテーマ曲も素晴らしい。
逆に戦闘場面は音楽を意図的に排除し、リアリズムを高めていました。
これはゴールドスミスの代表作の1つなのです。


同年の20世紀フォックス製作の超大作戦争映画である『トラ・トラ・トラ!』は、本アルバムでは5曲のみ収録。
実はこのアルバム、殆どが『パットン大戦車軍団』に割かれていて、『トラ・トラ・トラ!』はおまけ的扱い。
映画は30年くらい前に土曜の午後の民放で観ています。
当時小学生だった私も、この映画のチラシを父が持っていたので、存在は知っていました。
チラシには戦艦アリゾナが猛煙吹き上げていて、これは戦争超大作映画だと期待していたら…
日米軍の情報戦ばかり、つまり台詞のやり取りばかりで、いささか子供には荷が重かったようです。
小学生当時に観た、やはり台詞ばかりでも『12人の怒れる男』なぞは衝撃を受けたものですが、それよりこちらを先に観たのでしょう。
派手な戦闘場面を期待していたら終盤まで散々待たされたという感想でしたが、今観直したら感想もかなり違いそう。
音楽の印象はまるで残っていないのですが、こうしてCDで聴き直すと面白いものです。


日本軍を扱っているということで、ゴールドスミスが取り上げたのは『さくらさくら』。
これを幾つかのバリエーションで使っていて、なかなか面白い。
但し妙なジャポニズム、奇異的なものに溺れることはありません。
『さくらさくら』も琴のみならず、オケも使用していて、きちんと音楽として取り込まれている印象を受けました。
そして開戦に連なると思われる場面用の曲は、ゴールドスミスらしい緊張感溢れるもの。
戦闘場面の楽曲はこのアルバムには未収録ですが、こちらもひょっとして『パットン〜』同様に、「アクション場面に過度のスコアは不要だ」という論理なのでしょうか。
気になるところです。


どちらもドライで無駄を排除し、かつ研ぎ澄まされたスコアの傑作。
しかし時代を感じるのも確か。
これはこれら楽曲の良い悪いではありません。
映画音楽を取り巻く環境の変化によります。


最近のハリウッド大作映画は、緻密なフィルムスコアリングや、登場人物の心理を音楽で説明するなどといったことを求めず、単純に派手な楽曲を付けることが多くなったからです。
映画音楽を分かっていない監督やプロデューサーも増えた、というのもありましょう。
派手な映像や過剰な台詞で全てを説明しようという映画が増えた、というのもありましょう。
そういった環境では、ゴールドスミスのような作曲家は不要とも言えるのです。
いえ、ゴールドスミスが存命だったら、職人でもある彼ならば派手でエネルギッシュな、誰にも負けないパワフルなアクション・スコアを書いていたとは思いますが。


今更ながらゴールドスミスの後継者がまるで育っていない、もしくは居てもそういった曲を求められていないというのが、映画界にとっても損失だと言わざるを得ません。


Patton (1970 Film): Also Featuring Tora! Tora! Tora! (1970 Film) (1997 Studio Recording)

Patton (1970 Film): Also Featuring Tora! Tora! Tora! (1970 Film) (1997 Studio Recording)