days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Public Enemies


ちょっと時間が空いたので、久々の映画鑑賞が出来ました。
前回は銀座での映画でしたから、感覚的には相当に久々。
映画はマイケル・マンの新作『パブリック・エネミーズ』。
15時20分からの回、99席の劇場は9割埋まっていました。


世界大恐慌時代のアメリカが舞台。
シカゴ周辺の銀行を荒らし回り、自ら率いるプロたちの鮮やかな手際とハンサムな容貌、市民の金には手を付けないという美学でもって、義賊として民衆の人気を博したジョン・デリンジャーを主人公にしたギャング映画です。
デリンジャーに扮するのはジョニー・デップ
彼を追うFBI捜査官メルヴィン・パーヴィスにクリスチャン・ベイル
FBI長官エドガー・フーバービリー・クラダップ
デリンジャーの愛人ビリーにマリオン・コティヤール
その他デヴィッド・ウェンハムリーリー・ソビエスキースティーヴン・ラングジョヴァンニ・リビシスティーヴン・ドーフと、役者は脇役まで揃っています。
ラングとリビシは、公開中の『アバター』でも共演していますね。


結論から言うと、面白いけれども散漫な印象を与える映画でした。
マンは自作の代表作である『ヒート』を意識したのでしょうか。
冒頭の脱獄場面など、血の気の多い1人の仲間によって犠牲者が多く出る展開など、同作序盤の強盗場面を想起させます。
デリンジャーとパーヴィスの2人に物語が絞られているかと思いきや、FBIの事情やら何やらで、やや風呂敷を広げ過ぎた感があります。
結果的にパーヴィスの影が薄い。
また時代を描き切れていません。
デリンジャーとビリーの恋愛が盛り上がらないのは、女を描けないマンだから予想が付くものの、折角の実力派美男美女を据えたのに勿体無い。


それにしてもクリスチャン・ベイルは粘り強い俳優だと思いました。
ここ近作、『3時10分、決断のとき』ではラッセル・クロウに、『ダークナイト』ではヒース・レジャーに、『ターミネーター4』ではサム・ワーシントンの引き立て役となっています。
本作での立ち位置も同様。
それでもパーヴィスの苦悩がもう少し描かれていたら、と思いました。
エンディングのその後のパーヴィスの末路と、映画のラストに繋がりが見えないのです。
その点、出番がそんなに多い訳でもないのに、時に非情なフーバー役クラダップは儲け役と言えましょう。
冷徹な演出はマンらしいですが、やや表層的な人物像のなぞり方では、ただ単に感情移入出来ないだけではないでしょうか。


物語の焦点に難があっても、そこは腐ってもマン。
力強く自信満々なタッチは健在です。
140分という上映時間、弛緩することなくぐいぐい押す力量はさすが。
特にアクション演出はマンらしい。
1番の見せ場は後半に用意されている、デリンジャー一味と包囲したFBIとの銃撃戦転じて逃亡劇。
ここは文字通り大迫力で、サウンドも耳を聾せんばかりの凄まじさ。
盛り上げも上手い。


撮影はハイビジョン。
ドキュメンタリ・タッチを映像に狙ったようですが、ビデオ映像と時代劇の相性は余り良いとは思えませんでした。
マンは本作を時代劇ではなく、現代との同時代性を感じてもらいたかったようです。
それはエレキギター使用の曲も使われていたりで、意図は分かります。
時折いかにもなビデオ映像になるので、それが観客と画面の間にノイズになって邪魔しているように感じたのです。
事前に危惧されたように、フィルム映像こそが似つかわしいと思いました。
マンの盟友であるダンテ・スピノッティらしい、構図や陰影に優れたショットも多かったのですが。


…と色々と書きましたが、何のかんので楽しめたのは確か。
やはり悪党は映画の華なのです。
しかしこうなると、ジョン・ミリアスの監督デヴュー作で、ウォーレン・オーツデリンジャー役をやった『デリンジャー』も観てみたいものです。
これ、ずっと前から観たいと思っていたのですが、まるで機会がなかったのでした。
オーツは贔屓の俳優だし、パーヴィスを演じたベン・ジョンソンも好きでした。
実際のデリンジャーにはデップよりもオーツの方が似ているし、ミリアスと言えばマチズモ監督ですから、それはそれで男のロマン映画になっているのでは、との想像です。


本作の劇中で『バイバイ、ブラックバード』を歌うのはダイアナ・クラール
本人も少し登場します。
同様に音楽ネタで言うと、エンド・クレジットのスペシャル・サンクスにはハンス・ジマーの名がありました。
本作の作曲は『ヒート』以来のマン作品登板となったエリオット・ゴールデンサールで、ジマーとは全く関連が思い浮かばないのですが、さてどんな繋がりだったのでしょうか。


ところで本作の映倫指定は「G」。
つまり誰でも鑑賞出来る映画、という訳です。
しかし本国アメリカでは暴力描写によって「R」。
17歳未満は保護者同伴でないと入場不可、です。
実際に映画を観ると、撃たれたどてっ腹から内臓が見えて血がぴゅーぴゅー出たりで、結構な暴力描写があります。
これを小学校低学年でも観られるのって、かなりおかしいと思うのですが。
映倫の基準が不明確なのが、こういうので明確になりますね。