days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Män som hatar kvinnor


このところすっかりはまっていたスティーグ・ラーソンのミステリ小説、『ミレニアム』3部作第1部の映画化に行って来ました。
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』です。
横浜ららぽーと内にあるTOHOシネマ9は115席の劇場。
公開初日の土曜13時半からの回は8割の入りでした。


抜群に面白い原作はこのような感想を持っていたのですが、映画版の出来は如何ほどか。
まずは長大な原作を、よくぞここまでコンパクトに纏め上げた、と言って良いでしょう。
2時間半に収める為に枝葉はかなりバッサリ落とし、幹のみ残しています。
謎の核心に近付いていく展開はスリリングですし、古いネガフィルムをスキャンして連続して見ると…という場面など、ブライアン・デ・パルマの『ミッドナイトクロス』を思い出させてワクワクさせられます。
そう、ジョン・トラヴォルタが雑誌に載っていた自動車事故の連続写真を撮影し、アニメーション・スタンドでコマ撮りすると、事故が再現される…というあの屈指の名場面です。
こういったところは映画ならではの面白さでした。
お陰で最初から相当にテンポ良く楽しめますが、人物像や編集部に活き活きとした描写、経済犯罪、ジャーナリズム、ハッキングの手口について…等々が、かなり犠牲になっていました。
止むを得ないとは言え残念です。


主人公である『ミレニアム』誌のジャーナリスト、ミカエルは原作ではハンサムで女性関係が奔放な40男、大学の同窓生であり編集長でもあるエリカとは愛人関係。
40年前の少女行方不明事件の調査に赴いた現地でも、富豪一族の女性と関係を持ってしまいます。
しかし映画版ではここら辺は全てカット。
原作ではかなりの重要人物であるエリカですら、殆ど出番がありません。
この映画版シリーズでのミカエルの貞操概念は、一般人並みになるのかも知れませんね。
まぁしかし、原作は映画よりもテレビドラマにした方が良いくらい長い話ですから、納得しました。
ミカエルを演ずるミカエル・ニクヴィストはもっさりした50歳くらいの男性で、原作のような頭脳明晰さは余り感じません。
人の良さそうな男性、といった風情です。


さて本シリーズの真の主人公であるリスベットは、最初は演ずるノオミ・ラパスに違和感がありました。
原作では顔はピアスだらけ、全身タトゥーだらけ、ゴスメイクに横を刈上げた黒髪、黒革の服と厚底ブーツというルックスで、これは原作通り。
しかし身長150cm、24歳だけど14歳の少年に見える痩身小柄というのはちょっと違うかも。
24歳ではなく30歳に見えたのは、ノオミ・ラパスの実年齢がそうだからか。
しかし特に美人ではなく、暴力には暴力で復讐する問題だらけのリスベットも、実は繊細な面を持ち合わせているという…といったところをやり過ぎにならずに表現していたと思います。
結果的に中々のキャスティングでした。


少々残念だったのは、監督のニールス・アルデン・オプレヴが割と真面目に映画化している点。
本格推理、サイコスリラー、猟奇殺人、ナチ、サイバーと内容もりだくさんで、闇鍋のように先の予想が付かない展開を見せる本作のような作品には、もっとケレンがあってパワフルな監督の方が似つかわしかったように思えました。
スコット・ルーディン製作&スティーヴン・ザイリアン脚色のハリウッド・リメイクはどうなるのか分かりませんが、やっぱり監督にはポール・ヴァーホーヴェンなど如何でしょうか。
しかしそのリメイク、スウェーデンを舞台にして英語版で作り変えるのか、アメリカを舞台にするのか。
寒々しい北欧を舞台にした人間の暗黒面を描いたミステリでもあるので、内容と土地は切り離せないと思います。


スウェーデン版ポスターはトップにある通りなのですが、デンマーク版が面白いのでご紹介します。
ニルス・ビュルマン弁護士とリスベット・サランデル。

エリカ・ベルジェとマルティン・ヴァンゲル。

ヘンリク・ヴァンゲルとミカエル・ブルムクヴィスト。

一見すると人間性悪説みたいな絵柄が面白いですね。


さてエンドクレジット後に嬉しい特報が観られました。
第2部が『ミレニアム 火と戯れる女』の邦題で劇場公開されるようです。
これは楽しみ。
本作では原作と違って第2部の重要な場面が挿入されていたりしたので、やはりDVDスルーとかではなく劇場の大画面でしっかり観たいものです。



※1/18追記:フィルムの画質は決して良くはありませんでした。欧州映画らしい、暗くフィルムグレインの強い映像。Blu-ray Disc化やDVD-VIDEO化されても、高画質は余り期待出来なさそうです。サウンド・デザインは特筆するようなものは感じられませんでした。もっとも、内容に集中していたからかも知れませんが。