days of cinema, music and food

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Peter Gabriel: Growing Up Live


2002年に10年振りのオリジナル・スタジオ・ソロ・アルバム『Up』をリリースし、「半年後に次のアルバムを出す」と言ってから早7年半。
孤高のアーティスト、ピーター・ゲイブリエルピーター・ガブリエル)が来月にようやく新譜をリリースすることになったと知り、早速予約すると同時に、久々にライヴDVD-VIDEOを見直しました。
『Up』発表後に行った、グローイング・アップ・ツアーの模様を完全収録したDVD-VIDEOです。
残念ながら来日公演はありませんでしたが、この傑作DVDで溜飲を下げましょう。
やはりこれは大傑作ライヴ・ヴィデオです。


こだわり屋のゲイブリエルらしく、まずはこのデジパックからして素晴らしい(廉価盤はプラスティック製)。
段ボール紙風のスリップケースからデジパックを引き出すと、赤ん坊のイラストが目に飛び込んで来ます。
デジパックを開くと、中には各16ページの写真集2冊が見開き左右に接着されています。
冊子の間、真ん中には、ザーブ・ボールに入ったゲイブリエルをフィーチャーしたピクチャーディスクが。
この気合の入り方からして嬉しくなってしいます。
定価4,935円と価格設定が高めの日本盤DVDですが、それでもこの作りで許せてしまいます。


メニュー画面は、動画と音楽をスタイリッシュに用いたクールなもの。
但し、選択後の反応が遅すぎるし(プレイヤーによっては数秒掛かかります)、本編の字幕選択メニューの呼び出しが分かりにくいなど、使い勝手の点で不満があります。


収録は2003年5月8・9日にミラノのフィラフォーラムで行われたもの。
130分にも及ぶライヴの曲目は、次の通りです。

  1. ヒア・カムズ・ザ・フラッド(Here Comes the Flood)
  2. ダークネス(Darkness)
  3. レッド・レイン(Red Rain)
  4. シークレット・ワールド(Secret World)
  5. スカイ・ブルー(Sky Blue)
  6. ダウンサイド・アップ(Downside Up)
  7. ザ・バリー・ウィリアムズ・ショウ(The Barry Williams Show)
  8. モア・ザン・ディス(More Than This)
  9. マーシー・ストリート(Mercy Street)
  10. この夢の果て(Digging in the Dirt)
  11. グローイング・アップ(Growing Up)
  12. アニマル・ネイション(Animal Nation)
  13. ソルズベリー・ヒル(Solsbury Hill)
  14. スレッジハンマー(Sledgehammer)
  15. シグナル・トゥ・ノイズ(Signal to Noize) featuring Nusrat Fated Ali Khan
  16. イン・ユア・アイズ(In Your Eyes)
  17. ファーザー・サン(Father Son)


収録されているライヴ映像は素晴らしい。
『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』『ファーザー・サン』のピアノ弾き語りで挟んだ構成も憎いですが、映像・音声・演奏どれも一級の出来映え。
静かな弾き語りの後に『ダークネス』の衝撃が観客席を襲い、『レッド・レイン』『シークレット・ワールド』と御馴染みの曲が迫力満点で展開されます。
照明や大掛かりな舞台装置も見応え十分。
『シークレット・ワールド・ライヴ』でも組んだロベール・ルパージュによる舞台演出はさすがで、横移動中心だった前作から、今度は上下移動中心で見せます。
円形ステージで繰り広げられるパフォーマンスは、高度な演奏もさることながら、曲ごとに変える演出でも飽きさせません。


カリスマティックでナルシスティックありながら、同時に謙虚さがにじみ出るピーター・ゲイブリエルは健在を見せ付けます。
ヴォーカルは恐らくはスタジオでかなり差し替えられているのでしょうが、しわがれ具合が増した声の深みは以前以上。
例え頭髪が薄くなり、髭が白くなり、身体も肥満になろうが、魅力的なパフォーマーであることには変わりありません。
バンドのリーダーでもある彼は、音楽面での牽引だけでなく、そこに居るだけで会場の空気さえも変えてしまいます。
今回のライヴでは、逆さ吊りになり、球体の中に入って歩き、自転車に乗って漕ぎ回ります。
ゲイブリエル自身の持つ肉体によるパフォーマンスも楽しめるものとなっています。


大掛かりな機械仕掛けだけではなく、人間の持つ肉体も前面に押し出したステージとなっているのは、本来裏方であり黒子であるスタッフが、皆オレンジ色の衣装を着て目立つようになっていることからも明らかです。
ここにゲイブリエルとルパージュの意図がはっきり打ち出されています。
テクノロジーと肉体は、ゲイブリエルのスタジオ・アルバムのコンセプトそのもの。
ライヴ・ヴィデオ部分の監督ハミッシュ・ハミルトンは、その意図をすくい取っています。
キャメラはステージの上と下を同時に、時には上下の分割画面(スプリット・スクリーン)を用いて捉えます。
映像は全体に動きがあり、編集や絶妙なストップモーションや分割画面でもって、ライヴならではの躍動感と興奮を伝えることに成功しています。
ですから、映像面での演出過剰な部分、例えば『ザ・バリー・ウィリアムズ・ショウ』や『シグナル・トゥ・ノイズ』の合成画面の氾濫は、かえって興を削いでしまっているように感じました。


演奏者はトニー・レヴィンとデヴィッド・ローズという御馴染みメンバー以外は、新しい面々となりました。
特にドラムスが常連マヌ・カッチェからゲド・リンチに変わったのが大きい。
小技を効かした独特のグルーヴが持ち味だったカッチェに対し、リンチはストレートに力技で押すタイプ。
面白みの点ではカッチェに軍配が上がるので、最初はどこか馴染めなかったリンチのドラミングも、何度か聴くうちに、パワフルで大掛かりなライヴに相応しいものに聴こえてきました。
これはこれで良いのでしょう。


ゲイブリエルの次女メラニーの存在も、そことなく大きい。
素人臭いヴォーカルは、これが魅力をたたえているのだから不思議だ。
彼女の起用に、「良きパパ」ピーター・ゲイブリエルの姿が見える。
彼女には、プロフェッショナリズムに固まったステージの中で、ほっとさせるものがあるのでしょう。
要は可愛い、ということなのでしょうか。
立ち位置もパパの隣りですしね。


デヴィッド・ローズとトニー・レヴィンのリラックスした演奏はさすが。
ローズの堅実なギター、レヴィンのゴリゴリした独特のベース。
どちらの笑みも奏でる音色も、ゲイブリエルのサウンドに不可欠なもの。


圧倒的なライヴ・パフォーマンスを、このDVDは高画質で鑑賞させてくれます。
クリアでシャープな映像は、照明が暗いこの手の記録ものとしては珍しい。
ストレスレスで1つの世界に耽溺させてくれるのです。
音質も良い。
ノイジーなギターも、重低音のドラムスも、豊かなヴォーカルも、臨場感たっぷりに収録されています。
特にdts音声は高解像度。
Blu-ray Discの音声に聴き慣れた今となっては、いささか物足りないですが、ダイナミズムが伝わって来ます。
サラウンドは歓声が回り込むだけではなく、演奏も意図的に回り込むように設計されています。
音量を上げると楽曲の渦に放り込まれます。


特典はツアー自体のドキュメンタリと、トニー・レヴィンの撮った写真集等が収録されています。
ゲイブリエルの生の声によって、意図されたものが忠実にライヴで実現されているのか、確認も出来ましょう。


これは是非Blu-ray Discで出してもらいたいディスクですね。




来月発売される邦盤がこれです。

スクラッチ・マイ・バック

スクラッチ・マイ・バック

何と初の全曲カヴァー集。
知らない曲が殆どなので、さてどんな出来上がりなのか。
楽しみです。
SACDは出ないのかなぁ。