days of cinema, music and food

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The Imaginarium of Doctor Parnassus


大好きだった監督テリー・ギリアムの新作『Dr.パルナサスの鏡』を観に出掛けました。
金曜21時からのレイトショウは20人ほどの入りです。


テリー・ギリアムを「大好きだった」と書いたのは、ここのところの彼の映画に興味が持てなかったからです。
バンデットQ』、『バロン』、『フィッシャー・キング』は大好きでした。
世間では代表作とされている『未来世紀ブラジル』は力が入り過ぎて、ヴィジュアル・スタイルには圧倒されたものの、少々窮屈でした。
そうそう、モンティ・パイソンも忘れてはなりませんね。
映画版の『モンティ・パイソン/人生狂想曲』の冒頭部分のみギリアムが監督していますが、未だに強烈な短編でした。
しかし『12モンキーズ』辺りから「?」となってきます。
ラスベガスをやっつけろ』はただただ退屈でした。
ブラザーズ・グリム』は凡庸でした。
ローズ・イン・タイドランド』に至っては、とうとう観る気を無くしてしまい、未見です。


結論から言うと、本作は絶好調時には及ばないまでも、復調しつつあるのかな、という好感触を得て嬉しかった。
ボロやガラクタがひしめき合う画面。
唐突に入る下品なギャグ。
毒のある笑い。
シュールな幻想場面の数々。
小人の登場。
破綻したプロット。
ペースの乱れる呼吸。
良くも悪くもギリアムらしい映画になっています。
要は好悪分かれる映画。
しかし彼でしか描けない世界でもあるのは確かです。


幻想場面が始めて登場したとき、私は余り感銘を受けませんでした。
ギリアムにはCGは似合わないと思っただけではなく、それが甘ったるい派手な色彩の世界だったからです。
しかし幾度か幻想場面が展開されるにつれ、毒気のたっぷり入った汚らしい世界は、ギリアムにしか描けないものとなっていきます。
特に素晴らしいのが、主人公トニーが幻想世界に逃げ込むくだりです。
目もくらむような天空にまで伸びている梯子が壊れ、竹馬となって疾駆する場面。
警官の頭部の形をした巨大な石像が地面から突如出現し、舌がでろ〜んと出て来る場面。
下半身裸で黒いパンストをはいたスカート姿の警官隊の場面。
黒く毒気のある笑いと破天荒な幻想が混沌とし、モンティ・パイソンの切り抜きアニメの実写版といった趣となっています。
そう言えば、序盤にある橋げたに吊るされたヒース・レジャーを救う場面は、『バンデットQ』クライマクス近くにある空中の檻からの脱出場面を想起させました。


ヒース・レジャーの撮影途中の死去により、鏡の中の幻想世界では3人のスターが演じ分けているのも話題となっています。
これは吉でした。
というのも、トニーを演じるヒース・レジャーの現実世界での演技自体は彼にしては凡庸で、鏡の中のトニーたちの方が、出番は少なくとも演技の見せ場を作っているからです。
ジョニー・デップが顔を見せる瞬間は、この映画の鮮烈な場面の1つとなっています。
色男役もドンピシャ。
デップはやはりアイドルです。
ジュード・ロウは嬉々とした表情と同時に、彼の本性が姿をもたげて来るのを微妙に演じています。
儲け役はお久し振りのコリン・ファレル
彼が一番良かった。
トニーの本質をコミカルさも合わせて自然に演じていました。
これは難度の高い演技だと思います。
本作はトニー役を4人のスターが演じ分けることによって、かなり印象が良くなっています。
逆に言えば、鏡の中のトニーをヒース・レジャーだったらどのように演じ分けただろうか、という興味も尽きません。


クリスフトファー・プラマーは威厳たっぷりの役が多い彼には珍しく、汚らしくしょぼくれた老人を演じていて、これも良かったです。
悔いと自己憐憫を思わせ、この人のナルシスズムがにじみ出る役柄に対するアプローチは、いつもながら上手い。
ドンピシャでした。
娘役リリー・コールは、トップモデルということもあって役者として余り期待していなかったのですが、掘り出し物。
16歳という役を、時に幼く、時に大人っぽく見せていて、かなり印象に残ります。
欧米人にしてはあどけない顔つきと、高身長かつナイスバディというアンバランスさもあるのでしょうが、表情豊かで良かったです。
今後も期待が持てる役者になりそうです。
悪魔役トム・ウェイツは、かなり美味しい役。
いかにも悪巧みを腹に隠し持っているような臭い演技なのですが、これがコミカルで良かった。
本人は至極真面目に演じているだけに、余計に可笑しい。
小人のヴァーン・トロイヤーは強烈な可笑しさ。
率直な物言いの賢人かつ、悪意のない意地悪を感じさせ、かなり良かったです。
オースティン・パワーズ』の2作目、3作目は観ていないのですが、ミニ・ミーで有名ですね。


ところで本作は映倫によってPG12とされています。
その理由を知りたいもの。
よく分かりませんでした。


うーん、『バロン』のBlu-ray Discを購入したくなりました。

他のギリアム作品もBDで出してもらいたいものです。
フィッシャー・キング』も、今だったら無修正で出してくれるだろうに。