days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

"Black Sunday" on DVD-VIDEO


サントラCDを入手して聴きロバート・エヴァンス自伝を読み…ということで、当然のように『ブラック・サンデー』を観直しました。
前回観たのは2006年10月だったようですから、3年半振りですか。


映画の内容及びレヴューはこちらをどうぞ
読み直してみると、我ながら相当に力の入った文章になっているし、今回観直しても大体同じ感想を抱いていた事が分かります。
但し「心理描写を落としても」と書いていたのはちょっと違うようでした。
人物の心理描写もきっちり入っているし、そこが映画の重量感に貢献もしています。
重量感という点では、スーパーボウルの場面を実際に撮影しているところでしょう。
実際のプレイが行われているフィールド上で、ロバート・ショウが手前で演技をしているのですから。
特撮による誤魔化しだったら、ここまでのリアリズムは出なかった筈。
危機的展開を知ったショウが、超満員のスタンドの階段を延々急いで駆け下りるロング・ショットなど、今では撮影出来ないのではないでしょうか。
主人公が車よりも走ってアクションするという点でも、同じくジョン・フランケンハイマー監督の重量級アクション・ドラマ『フレンチ・コネクション2』に通じるものがあるように感じました。


今回観て今更ながら驚いたのは、全く無駄な描写が無いこと。
映画の上映時間は141分とかなり長いのですが、エンドクレジットなど1分少々。
よって本編だけでも正味2時間20分もあるというのに、無駄な場面やショットなど1つもありません。
ラストだってクライマクスでバッサリおしまい。
余韻すら与えません。
この映画は1977年に北米で公開されました。
1970年代も含めて、MTV登場前の映画を今観直すと、テンポの緩さを感じる事が往々にしてあります。
しかしこの映画に関しては、全くそんなことがありません。
緊張感満点でテンポは速く、しかし不必要に駆け足にはならないのです。
今観直しても十分以上に面白い。
臨場感満点のドライなタッチで物語るフランケンハイマーの演出には、今更ながら脱帽しました。


大量殺戮計画を企むテロリストたちと、それを阻止せんとする者たち、というプロットだけ取ると、現代ハリウッドでも映画化出来そうな内容です。
ましてやクライマクスの空中戦など、実物と見まごう特撮を駆使して再現することも現代では可能でしょう。
しかし映画の持つリアリズム、迫力、緊張感、重量感を、現代ハリウッドで描き出せる監督がいるのかと尋ねられたら、私だったら答えに窮してしまいます。
もしリメイクがされたら、アクション場面こそ増えても、ここまで面白い映画になるかどうか。
実在するパレスチナ・ゲリラ、日本赤軍などといったキーワードも出てこないでしょう。
派手な見せ場の連続であっても、リアリズムは失われ、内容がスカスカなものになってしまいそうです。
というのも、近年のハリウッド大型アクション映画は、本作の志向とは正反対。
人物描写や内容よりも、派手な展開や刺激的な場面重視になってしまっている場合が多いからです。


この手の娯楽アクション・スリラー映画の私的ベストの中には、『ダーティハリー』、『フレンチ・コネクション』、『大脱走』、『ジャッカルの日』といった題名を挙げたい。
これら全て1970年代の映画です。
私は1971年の生まれ(そう、『ダーティハリー』や『フレンチ・コネクション』と同い年)なので、リアルタイムにはこれら大人向け娯楽アクション・スリラーを観ていません。
観るようになったのは、中学生以降の1980年代になってからのテレビ放送版になります。
当時は洋画劇場放送枠内に収める為に、本編がカットされたり(または音楽を差し替えられたりなどということもありましたが。『ポルターガイスト』に『13日の金曜日』の音楽を使ったり)していましたが、それでもアクションだけではなく、物語や人物描写中心の映画を観る心づもりといったものを学んだように思えます。
若い時分もしくは映画を観始めの頃に観て感銘を受けた映画が、その人の基準になるのではないか、と常々考えていましたが、少なくとも私の場合はそのようです。
その為か、近年の「単なる派手アクション映画」は、楽しめこそ感銘や満足を得られることが少なくなって来ました。*1
我ながら単なるノスタルジーではないか、とも思えなくもないですが、やはりアクションであれ何であれ、基本的に映画は内容重視なので当然とも言いたいです。


LDの登場くらいからでしょうか。
家庭用AV機器の進歩に従って、派手な音響や高画質を気軽に楽しめ、また好きな場面だけ瞬時に観られるということもあって、派手なだけで内容空疎な映画が人気を博すようになって来たように思えます。
そういうのも映画の楽しみの1つなので否定はしませんが、私としては余り好きではありません。
実際、高画質・高音質な派手映画ソフトを買ってその場は楽しんでも、映画自体の出来が悪い場合は、その映画本編を繰り返して観ることは殆どありませんでした。


この映画はBlu-ray Discでは出ていないし、DVD-VIDEOだって5.1chのリミックスとオリジナルのモノーラル音声を収録しているだけ。
映像だって鑑賞には何ら不都合は無くとも、特別高画質ではありません。
特典映像の類ですら、一切入っていないという仕様です。
それでも私はこの映画を楽しむのに、このソフトで全く問題はありませんでした。
ここ最近の大作アクション映画が中々持っていない、映画としての「格」が間違いなくあります。
娯楽映画好きの方には是非お薦めしたい映画です。


ロバート・ショウ演ずるモサド将校カバコフ。

マルト・ケラー演ずる黒い9月の闘士ダーリア。

この2人が最初に顔を合わせるこの場面が、この後に大きな事件へと発展することになります。
ブルース・ダーン演ずるヴェトナム帰還兵ランダー。

皆、素晴らしい演技です。
ケラーとFBI捜査官役フリッツ・ウィーヴァーは、『マラソン マン』に続けてのエヴァンス作品連続登板。
エヴァンスお気に入りの役者だったのかも知れません。


日本公開直前に作成されたチラシの縮小コピーもDVDに封入されていました。

恐らく廉価版には入っていないと思いますが。
まさか夏休み映画の目玉が劇場爆破予告で上映中止になるとは、誰も思わなかった事でしょう。


ブラック・サンデー [DVD]

ブラック・サンデー [DVD]

ブラック・サンデー [DVD]

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*1:もちろん最近の映画でも満足したものはあります。ここ10年強ならば、『L.A.コンフィデンシャル』、『007/カジノ・ロワイヤル』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』&『イースタン・プロミス』、『ボーン・スプレマシー』&『ボーン・アルティメイタム』、『ダークナイト』、『スパイダーマン2』といった映画です。他にもあると思いますが、ぱっと出て来た題はこんなところ