days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Up in the Air


マイレージ、マイライフ』を観に行って来ました。
公開2日目の3連休2日目の日曜朝9時35分からの回、170席の劇場は半分の入りでした。
派手ではない映画の割りに、入りが良いのではないでしょうか。
前評判の高さや時代に合った内容が、人々の興味を呼ぶのかも知れません。


この映画の国内でのキャッチコピーは、「あなたの“人生のスーツケース” 詰め込みすぎていませんか?」というもの。
映画を観終わったら、まるで正反対じゃないかと思いました。


主人公ライアンは、企業のリストラ宣告を代行するコンサルタント会社の一員。
年間322日が出張で、アメリカ国内の各都市を飛び回っています。
今まで知りもしない赤の他人に面と向かって首切りを宣告し、しかも転職の希望を持たせるという、矛盾したかのような業務を行っています。
マイルを貯めるという密かな楽しみを持つ一方、ライアンは人との繋がりを疎ましく思う性分ですが、それがこの仕事を続けて来たからなのか、元々そのような性格なのかは分かりません。
しかしガランとして何も無い自宅に戻れば、寂しさを感じてもいます。
ある日、出張先で知り合ったキャリア・ウーマンのアレックスと意気投合し、出張で近くなる度に逢瀬を重ねる、後腐れの無い関係となります。
ある日会社に有望な新人ナタリーがやって来て、テレビ会議システムを使った首切り宣告システムを考案。
これで大幅なコストダウンが見込めることになります。
そんなのは現実的ではないと、ライアンはナタリーを実地教育することになるのですが。


先に書いた宣伝文句はライアンの講演内容。
映画のテーマは「あなたの“人生のスーツケース” 空っぽでありませんか?」と言い換えられそうです。
人生のスーツケースに無駄なものは詰め込まないで過ごして来た男が、それで本当に良いのか?と疑問を持つ映画なのですから。
その象徴が妹夫婦の写真切り抜きパネル。
家族とも疎遠だった彼が結婚間近の妹(『乙女の祈り』のメラニー・リンスキー)に頼まれた、各地名所前に置いて撮影してくれというパネルは、スーツケースに入りきりません。
分かりやすくも笑える小道具です。
細やかなエピソードや道具立ても豊富で、これが第3作目のジェイソン・ライトマン監督作品には外れ無しですね。
基本はシリアスなドラマですが、出張慣れしているライアンの異常なまでに手際が良い荷物詰めから、空港での無駄の無い立ち振る舞いが、スピーディな編集もあって笑えます。


原題は出張ばかりで「空に上って」ばかりの主人公に重ねているだけではなく、主人公の境遇でもある「宙ぶらりん」の意味もあります。
その意味はラストで明らかになりますが、安易なハッピーエンディングも安易なアンハッピーエンディングも迎えなかったのは賢明でしょう。
人の生き方を笑いを塗しながら淡々と描いたところに、ライトマンの知見があります。
主人公の境遇を否定するのか肯定するのか、映画を観る人の立場によっても解釈が違うのでは、と思いました。


ダークスーツが似合う男ジョージ・クルーニーは演技巧者ではありませんが、役柄を自分の個性に引き寄せる才能がありますね。
ライアンに嫌味が無く感情移入してしまう魅力があるのは、クルーニーの存在のお陰だと思いました。
アレックス役ヴェラ・ファーミガも素晴らしい。
セクシーな大人の女性(つまりドライということ)役という設定を、セクシーで知的に演じていました。
実は曰く付きの彼女の台詞や行動の意味が、終幕で観客の脳内で結び付くという、美味しい役でもあります。
ナタリー役アナ・ケンドリックも利発だけれでも現実を知って打ちのめされてしまうという、ステレオタイプに陥りがちな新人役を、血の通ったものにしていました。
ライアンの上司役ジェイソン・ベイトマンと、リストラされる男の1人役J・K・シモンズは、ライトマンの前作『JUNO/ジュノ』に続いての登板となります。