days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Nine


「他人の不幸は蜜の味」という言葉があります。
しかしこの映画に関しては、そうでもありません。


朝いちで映画を観た後に昼食を取り、その後再びシネコンに戻って『NINE』を観ました。
公開3日目の3連休2日目の日曜14時05分からの回、451席の劇場は半分の入りでした。
フェデリコ・フェリーニの名作映画『8 1/2』(1963)を下敷きにしたブロードウェイ・ミュージカル『ナイン』の映画版です。
ミュージカル映画をブロードウェイでミュージカル化したものをミュージカル映画化というのは、メル・ブルックスの『プロデューサーズ』や、ジョン・ウォーターズの『ヘアスプレー』と同じ流れですね。
勿論、ミュージカル好きとしては大歓迎です。


鑑賞後、「元になった『8 1/2』だけではなく、もっとフェリーニの映画を観ておけば良かった」とで後悔しました。
かつては『8 1/2』や『道』などがNHKでよく放送されていたので、その頃に観ていれば。
私が観たフェリーニ映画は、記憶にあるのはドナルド・サザーランドが主演の『カサノバ』くらい。
こちらは深夜放送で2-3回観ています。
なので随所にあるであろうフェリーニ映画へのオマージュが分からなかったのが勿体無かったです。


映画の内容はと言うと、イタリアの世界的名声を誇る映画監督グイド・コンティーニが、新作撮影開始まで後1週間しかないのに脚本を1行も書けないところから始まります。
セットは出来上がりつつあり、スタッフも集合、スターも来ます。
しかし肝心の脚本が全く書けません。
追い詰められたグイドは観光地まで逃避し、過去・現在の女たちに直接あるいは幻想の中で救いを求める、というもの。
ということで観客は2時間弱もの間、天才と称される映画監督のうじうじした悩みに付き合わされることになります。
まずこの点で観客を選ぶ映画になっています。
映画だけではなく、私生活も破綻寸前、しかし美女たちが言い寄って来るのもまた悩ましいという、およそ凡人には想像も付かない身勝手な苦悩と現実逃避が全編を占め、しかも話らしい話は無いのですから、劇場の座席で思わずもぞもぞしてしまう人が居ても責められません。


監督は傑作『シカゴ』のロブ・マーシャル
あちらもマトモに映画化出来そうも無い舞台版を見事に映画化していましたが、随分と観やすくなっていたのはビル・コンドンの優れた脚色があったからでしょう。
本作はアンソニー・ミンゲラマイケル・トルキンという有名脚本家が脚色していますが、どうにもテンポが悪い。
もっともこの2人はテンポ良くというよりも、ゆったりと人物を描く傾向にあるので、そもそも人選ミスなのではないでしょうか。
ロブ・マーシャルの演出はゴージャスかつセクシーですが、脚本との相性が宜しくないように感じました。
編集にも難があるということでしょうが。


しかしながら、やはりハリウッド大作の底力を見せ付けるのはミュージカル場面。
特に記憶に残るのは、役作りで太って娼婦を演じたファーギーの『Be Italian』と、歌もダンスもプロ級でびっくりなケイト・ハドソンの『Cinema Italiano』。
この2つの場面は圧巻です。
砂浜でのダンスから舞台上での女性たちの舞に展開する『Be Italian』。
ファッション・ショウを模した『Cinema Italiano』のパワフルかつ派手さ。
この2曲だけでも劇場で観る価値はあります。
相当にインパクトがありましたね。
期待していたダニエル・デイ・ルイスは2曲しか歌わず踊らずで、折角地声は美声なのだから物足りなかったです。
意外だったのはジュディ・デンチの声量。
70代半ばだというのに声が出ています。
長年舞台で鍛えられていただけにさすが。
デンチとほぼ同年代なのに相変わらず美しいソフィア・ローレンは、一体どうなっているんでしょうか。


しかし私自身の中で評価したいのは、グイドの妻役マリオン・コティヤールの歌う2つの場面です。
歌の上手さではファーギーケイト・ハドソンに負けているかも知れない。
しかし特に終幕で歌われる『Take It All』の魂から振り絞ったかのような歌と踊りは、歌のテクニックではない、演技力で心を鷲掴みにされました。
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』では本物のエディット・ピアフの歌を使っていたので、コティヤールの歌声は初めて聴けたのも嬉しい。
やはり勢いに乗っている女優は観ていて楽しい。


グイドの愛人役ペネロペ・クルスも良かった。
避暑地まで嬉々としてやって来るも、捨てられそうになって必死になってグイドの心を繋ぎとめようとする哀れ。
セクシーな歌とダンスを観ると、アメリカでの彼女のイメージも分かりますが、それでもやはりインパクトあり。
彼女もまた、勢いに乗っている女優の1人です。


と女優陣は素晴らしいのですが、これもご贔屓ニコール・キッドマンは余り出番が無く、印象に薄いのは残念。
キャスリン・ゼタ=ジョーンズが降板したニュースが一時期流れていましたが、その理由も分かる気がします。
相変わらず美しく、大女優の雰囲気はあるのですが。


9歳のグイドが登場するラストは、結局のところ幼い子供でもある自分を受け入れた上での再出発という意味でしょう。
だから彼の前を通り過ぎていった女性たちが全員登場するのです。
フィナーレは中々盛り上がりそうに期待させて、そのまま終わってしまうのが肩透かしで非常に残念。
ここはメンバー総出演の大ミュージカル場面にすれば、映画全体に対してかなりの好印象になったでしょうから。
メイキングも取り混ぜた楽しいエンドクレジットというデザートも用意されていたのですから、メインの肉料理はこってりたっぷり頂きたかったところです。

  • Nine-Be Italian Offical Music Video


  • Kate Hudson- Cinema Italiano