days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Wolfman


有給を取って11連休にしたので、平日は出来るだけ映画を観ようと計画しました。
最初の平日、最初の1本は、ベニチオ・デル・トロがプロデュースまでした『ウルフマン』です。
朝11時からの回、劇場は10人くらいの入りでした。


狼男ものは昔から内容に苦労して来たようです。
基本的なプロットは同じ。
ローレンス・タルボットが狼に噛まれ、自らも満月の夜に狼男となって凶行を繰り返すが…というもの。
内容に捻りを加えてもたかが知れているのか、狼男映画で名作・傑作の類は中々生まれていないという声も聞きます。
私が観た狼男ものでぱっとタイトルが出る映画と言えば、ジョン・ランディスの『狼男アメリカン』とジョー・ダンテの『ハウリング』くらい。
共に変身場面が凄い話題になり、後者は当時NHKで月-木で放送されていた『600こちら情報部』でも紹介されていたと思います。
ロブ・ボーティンのメイクアップはそれくらいにインパクトのあったものでしたし、内容も私自身は結構気に入っています。
まぁエログロホラー映画ではありますが、後のインディーズの名手ジョン・セイルズの脚本は中々手が込んでいたし、面白かった。
スティーヴン・キング原作の『シルバー・ブレット 死霊の牙』という映画もありましたね。


しかし変身場面の真打はリック・ベイカーの『狼男アメリカン』でしょう。
変身の際の肉体の変化に伴う苦痛が真に迫っていて、表情も素晴らしい。
ホラーにエモーショナルな瞬間を封じ込めた、1つのアートと言っても良いくらい。
ただ映画自体はホラーとコメディの融合が今ひとつで、結末もありきたり。
人狼のパワフルなデザインやゾンビ化した親友の描写など、好きだったんですが。
あぁあと、ジェニー・アガターも色っぽくて良かったです。


横道が長くなりましたが、本作『ウルフマン』は、そのリック・ベイカーが特殊メイクを担当している大作ホラー映画となっているのです。
監督はジョー・ジョンストン
ILMのデザイナーで、『帝国の逆襲』のスノーウォーカーをデザインした人です(シド・ミードの画集『Sentinel』からの戴きと本人は言っていますが)。
監督デヴュー作『ミクロキッズ』は軽快だったし、第2作『ロケッティア』も楽しかった。
ジュラシック・パークIII』も面白かった。
まぁ『ジュマンジ』は退屈でしたし、『遠い空の向こうに』と『オーシャン・オブ・ファイヤー』は見逃していますが。
と、何気に気になる監督なのですが、本作は映像センスにおいては素晴らしいと思いました。
彩度を落とした渋い画調でありながら解像度はクリア。
こりゃぁBlu-ray Discは高画質かも、などと思ってしまったくらい。
首やら手やら足やら内臓やらが派手に飛ぶのも、この監督にしては珍しいと思いつつも、内容からして当然の描写でありました。


しかし問題なのはまるで怖くないこと。
驚かしはそれなりにあるのですが、スリルがまるで盛り上がらない。
ジュラシック・パークIII』の方がハラハラしたというのは記憶違いなのか。
本作の編集は名手ウォルター・マーチなんですけれどね…
またアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーとデヴィッド・セルフの脚本は派手で大掛かりな見せ場を用意していますが、内容自体は平板なもの。
よって主人公ローレンス・タルボットの悲劇としても盛り上がりません。
その冷血な父ジョン・タルボット卿との父子の確執も同様。
卿を演じるアンソニー・ホプキンスは「軽やかな悪質さ」や「明るい陰湿さ」を演じていて、これは観ていて面白いのですが、主人公ベニチオ・デル・トロが今ひとつ冴えません。
性格付けが成功していないからでしょう。
贔屓の男優なので残念でした。
相手役エミリー・ブラントは今輝いている女優なので注目してしまいますが、ローレンスと彼女の心情も表層的なだけに見えてしまいます。
近々海外で出るBDはディレクターズ・カットも収録してあるそうなので、そちらはドラマ部分が補強されている可能性はありますが。
以前ご紹介したフロム・ヘル』にも登場していたアバーライン警部役のヒューゴ・ウィーヴィングは、嫌らしくて面白いのですが、こちらは脇役なので役の小ささもこんなものでしょう、と納得しました。


結局のところ、大掛かりではあっても内容が薄いので、恐怖も悲劇も盛り上がらなかったのだろう、と思いました。


さて一番期待していたリック・ベイカーのメイクですが、文字通りクラシックな「狼男」。
こちらはさすが手馴れたものでした。
CGを用いていた変身場面も、恐らくデザインはしていたのではないでしょうか。
グラフィックな残酷場面を手掛けるのは久々だと思いますが、そちらも手抜き無し。
アンダーワールド』の狼人間よりも私はこちらの方が好きです。
そうそう、ベイカー自身も2ショットのみ出演。
登場してあっという間に殺されていました(笑)。


ダニー・エルフマンの音楽は映画の内容に合っていましたね。
こちらも良かったです。