days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Book of Eli


世紀末SFアクション映画の『ザ・ウォーカー』を観て来ました。
公開2日目の日曜朝10時半からの回は40人ほどの入りです。


どうやら30年前に全面核戦争が起こったらしく、文明が崩壊した世界。
バックパックを背負ったサングラス姿の男ザ・ウォーカーデンゼル・ワシントン)が旅をしています。
バックパックには分厚い本が入っており、どうやらそれを西に運んでいるらしい。
物静かで口数も少ないのですが、襲い掛かる野盗やゴロツキどもを、返り討ちに皆殺しにしてしまうくらいに腕の立つ男でもあります。
一方、とある町の独裁者カーネギーゲイリー・オールドマン)は、1冊の本を捜し求めています。
配下の文字が読めないゴロツキどもを使っていますが、目当ての本は見つかりません。
見つかるのは『ダ・ヴィンチ・コード』などの(笑)ゴミばかり。
しかしカーネギーは、文字が読め、腕が立つウォーカーに目を留めます。


まずはこげ茶色のモノトーンに様式化された荒廃した世界に目が行きます。
全編合成や色彩加工がされた極端な世界には、色が殆どありません。
飛び散る血でさえ色が黒味がかっています。
そんな世界で残虐の限りを尽くすバイカー連中というと『マッドマックス2』を思い出しますし、実際にあの映画の影響は強いのでしょう。
しかしワシントンとオールドマンという現代の名優を主役に据えているので、まがい物の感じはしません。
ワシントンは台詞も少ないのに、その少ない台詞回しや表情や仕草で、厳しい世界を生きてきた男の生き様が伝わります。
一方のオールドマンは、『レオン』の大袈裟演技などとは違った悪役振りが好ましい。
いえ、単純な悪役と言い切れない部分もあって、人間味が感じられました。


掘り出し物はワシントンの繰り出すアクションです。
素早い身のこなしでマチェーテのような刀で瞬時に敵を切り殺す殺陣は、迫力がありました。
どうせならば編集で細かいショット繋ぎにするのではなく、もっと動きを見たかったところですが。
ハリウッドの大作映画ってどうして皆こうなってしまうのか。
勿体無いです。
一方、終幕に登場するフランシス・デ・ラ・トゥーアマイケル・ガンボンの完全武装(笑)老夫妻の家を舞台にしたアクションも、意表を突いたキャメラワークで面白かった。
全体の色調も、このくだりも、全体に様式化されているのが映画の特徴です。
例えば映画冒頭にある黒いシルエットで表現されたアクション描写もそう。
アルバート・ヒューズとアレン・ヒューズのヒューズ兄弟は、『フロム・ヘル』しか観ていなかったのですが、あちらも映像は凝ったものでした。
兄弟のこだわりは映像に一番出ていたのでしょう。
それでもクライマクスは、映像トリックを用いたキャメラワークだけに満足せずに、もっと苛烈且つ緊張感満点に描いてもらいたかったものです。


ワシントン演ずるどうやら本名はイーライという男が、大切に持ち運ぶ本の正体は、原題ですぐに分かってしまいます。
が、実はその本を使った仕掛けと男の正体が分かる終幕は驚きました。
元ネタは勘が良い人ならば、ここで何か書くとすぐに分かってしまう事でしょう。
この展開は全く意表を突いたものだったので面白かったのですが、それに対して内容が全体に薄めなのは残念。
退屈はしないし見所もあるのですが、若干物足りなく感じました。
それは文明に対する考察があるように見せかけながら上っ面だけ描いて、結局は普通の娯楽映画の範疇に留まってしまっているからでしょう。


それにしても首も手も飛ぶ暴力映画なのに、PG12とは不可解なり。
相変わらず映倫の基準はよく分かりません。


※6/22追記:登場人物の1人が口笛を吹く場面があるのですが、その曲が何とエンニオ・モリコーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』なのです。同作品の監督はセルジオ・レオーネですから、本作はマカロニ・ウェスタンへのオマージュも含まれているでしょうね。