days of cinema, music and food

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"Licence to Kill" on Blu-ray Disc


このところ妙に007=ジェームズ・ボンド映画気分ですので、熱帯雨林さんで買ってしまいました。
シリーズ第16作目、ティモシー・ダルトンのボンド2作目にして最終作となる『007/消されたライセンス』(1989)のBDを。
シリーズ唯一未見の作品なので楽しみでした。


監督は1980年代に作られた全てのボンド映画を担当したジョン・グレン
ケレンも特徴もそれほど無い地味な監督なのですが、このシリーズの編集者出身とあって、素直にアクション・スリラーを撮る才能はあったと思います。


映画の内容はこのシリーズでもかなり異色。
親友であるCIA局員フェリックス・ライターと共同で逮捕した麻薬王が脱走、ライターの新妻を殺害し、ライター自身も重症を負います。
ボンドは復讐のために麻薬王に近付く、というもの。
秘密兵器の類は少なく、ボンドの知力・体力・精神力が生かされることになっています。
昨今のダニエル・クレイグ・ボンドにちょっと近い感じでしょうか。
ダルトン・ボンドはこれの前に傑作『リビング・デイライツ』がありましたが、ロジャー・ムーア・ボンドよりも現代的なリアル志向な造りですよね。
それが時代にとって早過ぎたのか、特に本作は興行的に奮わず、ピアース・ブロスナン・ボンドの登場まで6年を要することになるのです。


派手で荒唐無稽なロジャー・ムーア・ボンドの次は地味でリアルなダルトン・ボンド。
その次が反動で派手で荒唐無稽なブロスナン・ボンド。
また反動で地味でリアルなクレイグ・ボンドと、時代に合わせて揺り戻しを繰り返しているのが面白いシリーズですね。


当然ながらボンドガールズ像もそうなっていて、あからさまに男尊女卑の匂い濃厚なムーア・ボンドの次は、若干現代に近付いた独立したダルトン・ボンドガールズになっています。
本作のキャリー・ローウェル演ずるパイロットもそう。

腕っ節も度胸もあるのが当時としてはまだ珍しかったのではないでしょうか(その原型は『ゴールドフィンガー』のオナー・ブラックマン演ずるプッシー・ガロアかも知れません)。
今やリチャード・ギア夫人のローウェルは、劇中でベリー・ショート・ヘアになってからが特に美しい。
登場してすぐのヘアスタイルは時代を感じさせますが、ベリーショートになってからは現代でも通じるルックになっているからそう感じるのかも知れませんね。


さて映画はというと、ロバート・ダヴィ演ずる悪役も悪くないし、この頃から目立っていたベニチオ・デル・トロの不気味なチンピラも良い。
それに感情露わなボンド像も結構好きです。
しかし今見直すと、ジョン・グレンにしてはちょっと間延びした感がありました。
特に惜しいのが終幕のカーアクション。
タンクローリーを使ったものなのですから、『マッドマックス2』のように押し捲る展開を期待したら、降りたり乗ったりで緊張感が削がれています。
もっと直線的に盛り上がるアクションの展開に持っていけば、復讐のカタルシスもあったのでは…と思ってしまいました。
あと20分ほど短くしてキビキビとした話運びにすれば、迫力のある異色復讐編になったのでは、と惜しまれます。
ちょっとびっくりしたのは、余り出血しないこのシリーズなのに残酷描写の数々があること。
撃たれて出血はするわ、鮫に脚を食われるわ、頭部破裂はするわ。
この点もかなり異色でした。


オープニング・タイトルはこれが遺作となった御馴染みモーリス・ビンダー

  • License To Kill (Main Title Designed by Maurice Binder)

ナラダ・マイケル・ウォルデン率いるチーム作、グラディス・ナイト歌の主題歌もとても良いです。

  • Gladys Knight - "License To Kill"


エンドテーマの歌が、あれ、セリーヌ・ディオンの歌でした。
実はこちらが原曲。
パティ・ラベルの歌う『イフ・ユー・アスクト・ミ・トゥ』をカヴァーしたディオン版は、原曲に近いアレンジだったようです。

  • Patti LaBelle - If You Asked Me To


この2本のクリップは特典として収録されています。


映画本編の音楽は故マイケル・ケイメン
どんな曲を付けているのか興味津津でした。
ダイ・ハード』シリーズ、『リーサル・ウェポン』シリーズなどの大作でもお馴染みですし、アクションやスリルを盛り上げるのも上手い。
一方で個性がそんなにある作曲家ではなく、どちらかと言うと地味な方。
それが吉と出て、きちんと正統派ボンド音楽になっていました。
ここぞというときの『ジェームズ・ボンドのテーマ』も結構派手に鳴らしています。
これは嬉しい誤算でした。


BDとしての映像は時代を多少感じるものの、十分なもの。
解像度を新作と比べるのは酷としても、発色も綺麗ですし、大画面鑑賞の妨げにはなりません。
音はかなり大音量に上げないと台詞が小さめで聞き取りにくい。
しかしそうなると効果音も大きくなるしで、少々悩ましいですね。