days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

"Kick-Ass" on Blu-ray Disc

欧州盤BD『キック・アス』を鑑賞しました。
感想を一言で表すと、ヒット・ガール、最高っ!




と、これだけでは何なので簡単な紹介をばしましょう。








はい、これが映画のメインタイトルです(ホント)。

主人公はモテないイケてない高校生のデイヴ(アーロン・ジョンソン)。
親友と3人組でいつもコミックブック店でたむろっているヘナチョコの色白男子です。
ヒーローもの大好きな彼は、自分もなろうと、通販で購入したスウェットスーツにマスクでキック・アスと名乗り、街のダニ退治とばかりに自警活動を行おうとしますが、逆にボコボコにされてしまいます。

しかしその様子を携帯で撮影してYouTubeにアップした輩がいたことから、一躍キック・アスは謎の有名人となります。
ある日、キック・アスはビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)とその娘ヒットガール(クロエ・グレース・モレッツ)という、別のコスチューム・ヒーローに出会います。

親子は凄まじいばかりに強い戦闘能力の持ち主でした。
ビッグ・ダディの標的は街を牛耳るギャングの親分フランク・ダミーコ(マーク・ストロング)。
彼に対して密かに復讐を誓っていたのです。


コスチューム・ヒーローものの変種で、現実世界を舞台にした点で『ウォッチメン』に通じるところがあります。
目立つのはヴァイオレンス描写。
特に10歳そこそこのヒット・ガールのギャングども相手の胸のすく活躍が、実際のところ情け容赦無いヴァイオレンスを伴ったものとなっています。
流血はふんだん、四肢切断や拷問といった描写も多々あり、完全に大人向けの映画でした。
そもそもビッグ・ダディという病んだヒーローの、超ブラック・ジョーク炸裂の英才教育もそうですが、10歳そこそこの児童による殺戮が見せ場というところが、既にキツいジョークそのもの。
ここら辺のところは、マジメな観客にとっては受け入れ難い部分となっているであろうことは想像が付きますし、この映画に対する好悪というのはブラックな要素をどう捉えるかで分かれると思いました。


しかし私はこの映画のテーマを「現実世界におけるヒーローとは」と理解したので、それを描く為に必要な描写であり、ユーモアであると解釈し、納得しました。
主人公デイヴは暴力と恋愛という現実を体験して大人へと成長していく、というメイン・プロットを据えていますが、実のところ陰の主人公はヒット・ガールとフランクの息子クリス(クリストファー・ミンツ=プラッセ)ではないでしょうか。


片や幼少時から戦闘能力を英才教育(笑)で叩き込まれたヒーロー。
片や父の歓心を買う為に、コスチューム・ヒーローに扮して囮となり、キック・アスを引きずりだろうとするギャングの息子。
共に父と子供の関係とそこからの解放もしくは呪縛が描かれていて、ドラマの横糸となっています。
これがあるから映画にドラマとしての奥行が出て来ていると思いました。


もちろん、これは娯楽映画。
コミックヒーローものとしても楽しめます。
予想のつかないスリリングな展開に、テンポの良い演出、冗談キツい台詞、笑えるギャグも多く、派手なアクションともども非常に面白かった。
特に終幕のヒット・ガール大活躍の場面は、拍手喝さいをしたくなる人も多いことでしょう。

正直に言ってマシュー・ヴォーンがこんな優秀な監督に化けるとは、思いもしていませんでした。
ガイ・リッチー作品のプロデューサーだったのが、ダニエル・クレイグ主演の処女監督作品『レイヤー・ケーキ』で「リッチー同様にやはり犯罪映画を撮るのか」と思っていましたからね。
第2作である変化球ファンタシー『スターダスト』でニール・ゲイマン原作に挑戦してから、よもやのヒーローものとは。
これは彼の、というよりも1本の映画として傑作です。
続編の企画もあるようですが、そちらも原作があるのか気になるところ。
本作の基となったのは、マーク・ミラー原作、ジョン・S・ロミタ・Jr画のコミック。
マーク・ミラーには、映画化された『ウォンテッド』がありましたね。
軟弱主人公がヒーローになるという題材の同工異曲という点で、『ウォンテッド』と本作は兄弟と言えます。

Kick-Ass

Kick-Ass


コスチューム・ヒーローものですから、当然ながら往年の名作への目配せもあります。
ビッグ・ダディとヒット・ガールの元ネタは、見てそのまんまのバットマンとロビン。
キック・アスとクリス扮するレッド・ミストにも原型があるのでしょうか。
どなたか詳しい方がいましたら教えて下さい。


今回視聴したのはUK盤・缶ケースで、本編BD+本編DVD-VIDEO+特典DVDを収録した3枚組。

DVDは当然ながらPAL盤。
BDP-LX91もBarco Cine7もPAL対応なので問題無く再生出来ましたが、BDに比べるのは酷というもの。
BDとしての画は全体に色彩が黄色味がかった色調で、これはコミックを意図したものでしょう。
画質自体は良好に思えました。
音響は銃撃音や火事の場面などが聴き所。
どちらも全く問題ありません。
日本語字幕・吹き替え音声は収録予定でしたが、直前の仕様変更により削除された模様です。


この映画、北米の批評家たちの受けは良かったものの、興業的には苦戦しました。
有名なのはニコラス・ケイジくらいしか出演者はいないし、原作はマイナーなコミックということで、未公開になりそうでした。
それが町山智浩が絶賛し、『映画秘宝』も賛辞を送り、「したまち映画祭in台東」の9月16日にて日本初上映され、早くもネットでは話題となっています。
来年早々に劇場公開予定が、お正月映画に繰り上げとは嬉しい。
ここら辺が日本語字幕削除の仕様変更に影響を与えたかも知れませんね。
ですから英語字幕表示での鑑賞となりました。
悪口雑言のオンパレードで、早口場面では字幕に目が追いつかないこともしばしば。
これは日本語字幕でも観たいなぁ、というのも正直なところです。


ともあれ、これはアクション・コメディの傑作。
改めて劇場に応援に駈け付けたいと思っています。
因みにプロデューサーの1人にブラッド・ピットが名を連ねており、トンがった作品は彼好みなのかも。
以前にもご紹介したマックス・ブルックスのゾンビ小説『WORLD WAR Z』映画化も企画進行中といいますから、中々面白いプロデューサーのようです。