days of cinema, music and food

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The Social Network


デヴィッド・フィンチャー監督の新作『ソーシャル・ネットワーク』を観に行って来ました。
公開初日の土曜12時50分からの回、309席の劇場は4割の入りでした。
時間帯も含めて興行側にとっては期待出来そうな回なものの、意外に入りが悪いと感じました。
もっとも話題作だけあって、都心の劇場は満席との情報もありました。
横浜ららぽーとはやはり地方興行に近いのかな?


内容は既に報道等にある通り、19歳でfacebookを作った天才ハッカーマーク・ザッカーバーグを描いたもの。
facebook設立の裏側と、彼が訴えられた2つの裁判という3つの時間軸を同時進行で描きます。
この複雑な構成もさることながら、耳を奪うのはフィンチャー作品常連のレン・クライスによるサウンド・デザイン…ではなく、早口で機銃掃射のように撃ち出されるダイアローグでした。


冒頭、ルーニー・マーラ演ずるガールフレンドに、ジェシー・アイゼンバーグ演ずるザッカーバーグが振られてしまいます。
会話が全く噛み合わないのです。
この場面でいきなり打ち出されるのは、主人公の他者への共感が皆無な事。
彼が彼女に投げ付ける言葉の数々は、一聴すると馬鹿にしているかのようにも聞こえますが、実は真実が多い。
にも関わらず、彼は彼女が何故怒るのかが分からない。
これ以降、決して誰にも謝らない主人公は、観客の感情移入を入り込ませない存在として、物語の中心に居座り続けるのです。


若者達の早口会話だけではなく、場面場面の切り替えしも早く、またパラレルの3つの時間軸を同時進行で描く為、とにかくテンポが速い。
アーロン・ソーキンの脚本の緻密さ、狡猾さには舌を巻きます。
とある青春成功物語とアメリカ映画のお家芸とも言うべき裁判ものと絡めた手腕は特筆もの。
さらに凡庸な監督ならば2時間半掛けて描くであろう物語を、フィンチャーは2時間に濃密に押し込みました。
この疾走感は中々ありません。
フィンチャーは冷徹な眼差しで若者達を描きつつ、そこに下手な批評性を加えていません。
HD撮影による高細密且つ硬質な映像と監督の視点も交じり合い、独特な世界を作り上げています。


映像は技術的に非常に高度なもの。
CG合成や加工、さらにはミニチュア然とした皮肉な撮影を用いたシークェンス等、凝り性のフィンチャーの面目躍如です。
特に硬質な映像も含め、肉体的な否定をしたかのようなインヴィジブルVFXの多用は注目すべき点でしょう。
この映画に描かれる20歳そこそこの若者達は、脳内もしくは電脳内で生きているのだと言わんばかりです。
結局、ハーヴァードという世界でもトップクラスの大学であっても、生み出しているのは実在感に乏しい世界に生きている、金を生み出すマシーンでしかないのか。
そんなテーマがあるようにも思えました。


興味深いのは大学内でも階級があること。
大学内で上流階級にいる者は、実際に上流階級出身で、社会に出ても上流階級である。
下層階級出身の者は、やはり自らの階級に押し留められて生きていくしかない。
だから主人公が冒頭でボストン大学のガールフレンドに投げかける言葉「ボストン大なのだから勉強などしなくて良い」もまた、真実だという残酷な現実が透けているのも、見逃してはならないでしょう。
皮肉な学園物語としても面白く観られました。


フィンチャーの次回作は、拙blogでも再三触れているように、スティーグ・ラーソンの傑作小説『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』映画版リメイクとのこと。
本作でチャーミングな素顔を見せたルーニー・マーラが、先日公開されたWebでの写真で超仰天のリスベット・サランデル役ということで楽しみです。
音楽も本作と同じトレント・レズナーですしね。
スティーヴ・ザイリアンの脚本は結末も含めてオリジナル版とかなり違うとの事。
確かハリウッド版も3部作予定の筈ですが、第2部以降は話繋がるのかいな、それとも独自路線にするのか等気になります。
が、奇数作は外れが多いフィンチャーというジンクスもまた、気になりますね。
前回の奇数作は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』だから、堅実な演出力を身に付けている今となっては大丈夫だろう…という気もしますが、さて。