days of cinema, music and food

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The Town


チャック・ホーガンの犯罪小説『強盗こそ、わが宿命(さだめ)』を映画化したベン・アフレック監督、脚色、主演作『ザ・タウン』を観て来ました。
封切初の週末、しかも15時45分からの回だというのに、客は私も含めて15人いるかどうか。
良い映画なのになぁ。
確かに日本での興行成績を左右するようなスターは出ていませんが、これはお勧め映画なのです。


全米一強盗が多い街、ボストン市内の下町チャールズタウン。
強盗が家業として継がれていくのも多い街なのです。
ここで幼馴染らと4人組として強盗を繰り返すのがリーダーのベン・アフレック
強盗に入った銀行でしたが、非常ベルが鳴った為に凶暴な幼馴染ジェレミー・レナーが支店長レベッカ・ホールを人質に取ります。
逃走途中でホールを解放した彼らでしたが、何か自分達の手掛かりを掴んで警察に話すかも知れないと、アフレックは彼女に近付きます。
恋に落ちる2人。
アフレックは生き方を変えたいと思うようになります。
しかし緻密で入念な計画と犯行をアフレックらの仕業と睨んだFBI捜査官ジョン・ハムらの捜査網が、彼らにじわり近付いていくのでした。


原作は文庫本上下2巻の長編ですが、これを125分とかなりコンパクトに纏め上げたのが本作。
実際かなりの人間ドラマ部分が端折られており、原作で光った多彩な人物描写も大胆に切り落とされています。
特に顕著なのが強盗仲間たちの描写。
映画版では主人公アフレックとレナーのみが描かれている感じなのですが、原作では他の2人にもそれなりの描写がされております。
またジョン・ハムが演じたFBI捜査官は支店長にやはり恋心を抱き、アフレックに嫉妬するというサブプロットもあるのですが、これもばっさりとカット。
結果的に映画は犯罪者の主人公とそれを追うFBIの物語に収斂された、緊張感溢れるアクション・スリラーとなりました。
原作と全く異なる結末は娯楽映画としては賛否分かれそうですが、私はこれはこれで正解だと思いました。
思い返すと、原作は犯罪者として生きるしかなかった男の物語という、昔ながらのヤクザの色が濃かったのかも知れません。
そう、ブライアン・デ・パルマの佳作『カリートの道』のような。


アフレックの演出は簡潔で余計な説明を加えません。
そう、クリント・イーストウッドの映画のような。
落ち着いた手さばきで役者たちから演技を引き出し、ドラマ部分と強盗場面の緊張感のコントラストを明確にし、見事です。
アクション場面も凄い迫力。
映画全体も後半は直線的に緊張が盛り上がり、一気呵成とばかりに爆発する銃撃戦場面は圧倒的な見せ場になっています。
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』等の名手ロバート・エルスウィットの渋い撮影、同じくポール・トーマス・アンダーソン組のディラン・ティチェナーの歯切れ良い編集も素晴らしい。
アクション場面は優秀な第2班監督アレキサンダー・ウィットという人が担当していますが、この人が監督した『バイオハザードII』ではアクション場面が何が何やら分からないという映画でしたので、やはり監督や編集者の技量が大きいのでしょう。


ベン・アフレックの処女監督作品に当たる前作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』は、劇場公開を楽しみにしていたのについぞ未公開、Blu-ray Disc及びDVD-VIDEOスルーとなってしまいました。
そちらも『ミスティック・リバー』のデニス・ルヘイン原作で、やはりボストンが舞台の映画のようです。
アフレックはボストン出身ですし、そもそも処女脚本作品『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』もボストン愛に包まれた映画でした。
本作は繰り返し登場するオベリスク、バンカーヒル記念塔の空撮に象徴されるように、ボストン愛に満ち満ちています。
数年前にボストンに1週間滞在した私にとって、アフレック同様にボストン・レッドソックス・ファンの私にとって、特にクライマクスに当たるフェンウェイ・パークのくだりは懐かしかった。
アフレックの郷土愛映画でもあるのです。


役者たちの好演が光る映画ではありますが、残念ながらミスキャストが目立つ映画でもあります。
それは主役のベン・アフレック
どう見ても街のチンピラに見えません。
道を踏み外した男が1人の女の為に自分を変えようとする物語なのだから、もっとガラの悪い演技が出来る役者が良かったのではないでしょうか。
で、ガラの悪いチンピラ演技が素晴らしかったのがジェレミー・レナー
ハート・ロッカー』の彼も良かったですが、本作はさらにその上を行きます。
今勢いのある役者を同時代的に観られるのは、映画ファンならではの幸せですね。
ヒロイン役レベッカ・ホールも難しい役ですがさり気ない存在感が光ります。
これは原作の欠点でもあるのですが、ホールとアフレックの恋が今ひとつ説得力に欠けるのが勿体無い。
アフレックの父親で獄中に居るのがクリス・クーパー
1場面のみの登場ながら凄みのある演技です。
街の顔役である花屋を怪演するのが、先日亡くなったピート・ポスルスウェイト
彼も素晴らしい。
こういった実力派映画俳優を揃える一方、巧みなキャスティングだと思うのは、いわゆる儲け役にテレビドラマの人気者を配しているところです。
FBI捜査官役ジョン・ハムは『マッドメン』の主役で、レナーのビッチな妹役が『ゴシップガール』のセレブな人気者役ブレイク・ライヴリー
両者ともに雰囲気が出ていて、役者の技量もさる事ながら、その演技を引き出したアフレックの監督としての才能も分かりました。


原作も、そしてアフレックも明らかに意識したのがマイケル・マンの傑作『ヒート』。
本作もマシンガンを使った激しい銃撃戦が用意されていますが、メイン・プロットもあちらを思わせます。
本作は大河ドラマ調のあちらとは赴きが違うものの、犯罪アクション・ドラマとして残りうる秀作だと思います。



尚、IMDbを見ると、本作のファースト・カットは4時間あったとあります。
それを2時間50分にカットしたものはプロデューサーもワーナーも気に入ったとの事ですが、それでもまだ長いと2時間10分にカットし、最終的に劇場公開版の2時間5分になったようです。
北米でリリースされているBlu-ray及びDVD-VIDEO版は劇場版と150分版が収録されているようなので、日本盤も是非同様の仕様で出してもらいたいものですね。
恐らく娯楽映画としては劇場公開版が正解なのでしょうが、ドラマ部分が増えているであろう150分版は味わい深い出来になっている可能性もありますから。


強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)