days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The King's Speech


娘を実家に預けて、妻と映画に行って来ました。
預けての別れ際、娘はきゃはは笑って「またねー」と言って、こちらも見ずに公園に向かってトト&祖父母と一緒に走り去りました (T_T)
私の実家が相当好きなようで、まぁ、有り難い事です。
どちらも自分の家だと思っているようにも見受けられます。
祖父母叔母宅の方が、傍若無人にふるまえっているようですが (-_-;)


震災後、飲食業界も経済的ダメージをかなり受けているようですが、興行界、娯楽関係はさらにひどい状況と伝え聞いています。
自殺農家も出たのには胸が痛みます。
先週はイベント関連会社が震災不況で早速倒産したというニュースもありました。
近場のシネコンの内、ワーナーマイカル系は24日木曜から再開しました。
計画停電予定の時間帯を避けての営業ですが、被害も軽微だったのでしょう。
まずは喜びたいものです。
よく利用していた横浜ららぽーとにあるTOHOシネマは4月末日まで閉館とあり、損害が大きかったのかも知れません。
従業員の方々も大変なのではないでしょうか。
まずは早く再開出来る事を願っています。


新百合ヶ丘ワーナーマイカルシネマに到着したのが12時半。
13時からの回を観ようという目論見です。
今年のアカデミー賞受賞効果か、あるいは娯楽に飢えていた客が多いからかでしょうか、既に最前列の3列しか空きが無いとの事でその回は断念しました。
首が凝るような姿勢では映画も楽しめませんから。
次の15時35分からの回のチケットを購入しました。
昼食をゆったり取ったり、買い物したりであっという間に時間が。
観に行った映画は『英国王のスピーチ』です。


1925年の大英帝国博覧会閉会式で、英国王子ヨーク公アルバートコリン・ファース)は父王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の代理として演説を行いますが、吃音により大失敗をしてしまいます。
妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム・カーター)は、そんな夫を助けようと、高名な医師等を次から次へと試しますが、誰も上手く行かず。
ある日彼女が訪ねたのは、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)という言語聴覚士
オーストラリア人であるローグは、独自の方法で治療を始めます。
治療は宮殿ではなくローグの治療室で行い、王子だろうが対等な立場を求めるローグに対し、最初は反感を持つアルバート王子でした。
だが父王の死と共に、自らの心の傷をローグに打ち明け、セラピーを進める内に2人の間に絆が出来て行きます。
おりしも王位を継承した兄デヴィッド王子(ガイ・ピアース)は、二度の離婚歴があるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの結婚を決意し、エドワード8世としては1年で退位します。
望まずしてジョージ6世として王に就く事になったアルバート王子でしたが。


もう10年くらい前になりますが、妻はクライアントの経営陣がずらり並んだ前で上がって言葉が出ず、上司が後を引き取ったという苦い思い出があるので、本作の主人公に感情移入し易かったとか。
今は平気の平左、事前予習無くともすらすら言えるそうですが。


緩急付けた若き監督トム・フーパーの演出は格調高く、瑕疵も少ない。
ドラマチック且つユーモア溢れる作りでした。
ヴェートーヴェンの『交響曲第7番』第2楽章が流れるクライマクスは、盛り上がらずにいられません。
王子とローグを主軸にしたドラマは面白く、70歳を過ぎて初めて脚光を浴びたデヴィッド・サイドラーによる脚本はがっちり出来ています。
それでも見ものは、ずらり揃った演技達者な役者たちの顔ぶれ、演技でしょう。
特にC・ファースはパワフルで全く素晴らしい。
これ見よがしな臭い表情は見せず、抑圧された、しかし短所も目立つ人間臭い王族を演じていて、画面に釘付けになってしまいました。
20代の時は英国美青年俳優としての人気がありました。
ですが1995年のお化け視聴率ドラマ『高慢と偏見』のハンサムな貴族Mr.ダーシーが代表作でしょう。
このドラマは面白かったですねぇ(レヴューはこちら)。
あのドラマはファースも良かったけど、ヒロインのジェニファー・イーリーも良かった。
そのジェニファー・イーリーはローグ夫人役で出演し、また『高慢と偏見』でMr.コリンズ役のデヴィッド・バンバーがローグがオーディションを受ける舞台の監督役で本作に出ていました。
後者は妻が気付いていて、さすが『高慢と偏見』マニア(^^
さてファースはMr.ダーシー役で人気が爆発し、原作者の強い要望で出演した『ブリジット・ジョーンズの日記』でマーク・ダーシー役も演じていました。
Mr.ダーシー現代版ですからね。
近年は『ラブ・アクチュアリー』や『マンマ・ミーア!』等出演作が途切れず、長年活躍しているスターですが、昨年観たシングルマン』は近年の代表作でしょう。
本作の演技はその『シングルマン』と並ぶ出色の演技です。


ファースの相手役J・ラッシュも軽妙。
この人らしいやや芝居がかった演技ですが、押さえ気味のファースとはとても良いカップルだったと思います。
陰影に富み、悲哀も含めて感情豊か、十分共感に値する人物役を印象的に演じていました。
そう言えばこの2人、『恋におちたシェイクスピア』でも共演していますね。


エリザベス1世ヘレナ・ボナム・カーターは、近年に無く普通の人役。
でもこの人はティム・バートン作品で見せる極端な役だけではなく、普通の役も深みを持って演じられるのです。
とても魅力的だったと思います。
明るく快活な兄王役ガイ・ピアースもさすがでしたが、ファースの兄役とは少々厳しかったかも。
ファースよりピアースの方が6歳年下ですし。


クライマクスのスピーチが第二次世界大戦参戦を宣言する戦争スピーチなので、本作を戦争礼賛映画とする向きもあるようです。
果たしてそうなのか。
私は違うと思います。
ラッシュ演ずるローグの台詞や表情を見てみましょう。
どんな表情を浮かべているでしょうか。
ローグは戦場で心に傷を負った兵士たちの心のセラピーを行っていました。
戦場の悲惨さを知っているのです。
その彼が見せる表情を観れば、本作がそんな映画ではないのは明白です。


スポコン映画の変化球としても楽しめます。
お勧め。