days of cinema, music and food

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The King's Peach


今年のアカデミー賞でも話題になった『英国王のピーチ』を観て来ました。
平日金曜夜21時半からのレイトショウ、145席の劇場はチケット完売の入りでした。


英国王ヨーク5世(コリン・ファース)は桃が大好物だった。
聡明で高潔な性格で、豊かな知識を誇る話術の天才でもある王は、幼い時の乳母の性的いたずらにより、密かに桃に対して目が無くなっていた。
普段は冷静沈着で人好きのする王だったが、大英帝国博覧会閉会式で大失態を犯してしまう。
日本製の発酵乳ヨークの原材料に、今まで入っているとばかり思っていた桃が入っていないと知り、怒りの余り吃音になってしまったのだ。
悪口雑言を吐きまくり、全裸でバッキンガム宮殿内の女中たちの尻(ピーチ)を追い駆け回す王の余りの変貌振りに、妻であるエリザベス女王ヘレナ・ボナム・カーター)は八方手を尽くして多くの名医に見せるが、効果も無い。
そんな彼女の前に、型破りでやぶにらみの言語療養士オットー(ケヴィン・クライン)という見るからに怪しい男が現れる。
オットーはヨーク公自らをケンと名乗らせるなど意味不明で型破りな、且つ精神的にも肉体的にも苦痛を伴う荒療治を開始するが、ヨーク公はその快感に目覚め、2人の間に熱い絆が生まれ始める。
だが実はオットーの正体はアメリカ人の泥棒で、王家の財宝を狙っていたのだ。


英国伝統のブラックユーモアとドタバタ劇に、アメリカ的な分かりやすいギャグを塗し、本作は抱腹絶倒のコメディ映画となりました。
緩急付けた若き監督トム・フーパーの演出は格調高く、瑕疵も少ないもの。
結果的に、意外にもエモーショナル溢れる佳作となっています。
大型新人監督の登場です。


見ものはずらり揃った演技達者な役者たちによる、身体を張ったドタバタ演技でしょう。
コリン・ファースはパワフルで、全く素晴らしい。
聡明で快活、優れた人格者の王が、一転して狂気と歓喜の虜になる様は、眼に焼き付いて忘れられません。
昨年公開された『シングルマン』でも冒頭からオールヌードを披露していましたが、本作も脱ぎまくり。
名作『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のジョン・クリーズの後継者は自分だ、と言わんばかりに、裸で笑いを取る事を恐れません。
しかしファースらしいのは、そこに哀れを表現している事。文字通りに「裸の王様」なのです。


対するケヴィン・クラインは、久々のコメディ演技に本人の喜びほとばしる様が手に取るよう。
演ずるオットーの人格破綻者振りも大笑いながら、一方で真面目な顔してボケをかますなど、めまぐるしい演技は爆笑もの。
ファースとクラインのハンサムな高身長コンビは見た目もお似合いで、映画史に残るカップルが誕生しました。
この2人に嫉妬して悶えるヘレナ・ボナム・カーターも可笑しい。
芸達者ばかり揃えて船頭多くして船山に登る場合も往々にしてあるのに、本作は共演に化学反応が生じて大成功でした。


吃音を笑うと言うのは差別的内容ですが、これは笑っている人自身に跳ね返ってくるもの。
また王族であろうと狂人であろうと人間に変わりないというテーマも明確です。
王室をここまで描く映画界には驚かされます。
日本では皇族をこのように描くのは不可能でしょう。
つまりこれは勇気あるブラックユーモア映画なのです。


クライマクスはリビアの首都トリポリで決死のゲリラ撮影を敢行したというもの。
カダフィ大佐(本物そっくり!)を人質に取っての大追撃戦は、本当に街を爆破したとしか思えない驚異的な映像です。
実際に撮影スタッフの1人が政府軍に射殺されたという悲しいニュースも世界に広まりましたが、これは笑いに対するスタッフ&キャストの覚悟が分かろうというもの。
映像も内容も驚くべき展開のシークェンスは、笑いと緊張が団子になって驀進します。
そこに滑り込むアイロニーとペーソス。
本作は記憶に残る作品となりました。


下ネタも多く不謹慎で不道徳、とてもとても子供に見せられない内容なのに、本作に「G」という制限無しのお墨付きを与えた映倫の英断というか、蛮勇振りも注目に値します。


必見です。




※もちろん、『英国王のピーチ』という映画は存在しません。
個人的には凄く観たい映画ではありますが(^^
だってコリン・ファースケヴィン・クラインって、相性良さそうじゃないですか。