days of cinema, music and food

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The Fighter


楽しみにしていた実話ボクシング映画『ザ・ファイター』を観て来ました。
日曜15時30分からの回、99席の劇場は6割の入り。
スターは出ていても、地味で集客を期待出来そうなスターは出ていないですから、アカデミー賞効果があっても興行的には難しいのでしょうか。
でもこれがお勧めの映画なのです。


1993年、マサチューセッツ州ローウェル。
若きプロボクサーのミッキー・ウォード(マーク・ウォールバーグ)は、天才肌の元プロボクサーでもある異父兄ディッキー・エクランド(クリスチャン・ベイル)の指導の元、町の期待を背負っていた。
アイルランド系の一家は母親アリス・ウォード(メリッサ・レオ)を家長としており、7人の姉と兄を食わせるべく、ミッキーは無理な試合にも出なくてはならない日々を送っていた。
さらにディッキーは陽気で口の立つ人気者でもあったが、麻薬中毒者で怠惰な性格でもあり、窃盗等の現行犯でとうとう実刑を受けてしまう。
家族がミッキーの足を引っ張ってキャリアを潰していると感じた恋人のシャーリーン(エイミー・アダムス)は、ミッキーにも家族から離れるよう諭すが。


と、こうして書くとお分かりの通り、ボクシング映画でありながら家族ドラマ映画にもなっています。
面白いのはこの家族。
母アリスは髪をブロンドに染め、ミニスカートで若造り、9人もの子供を育てたという自負もあって一筋縄ではいかない強烈な性格。
アリス並みに強烈なのがディッキーで、怠惰で薬中なのに陽気で面白い。
生え際や後頭部の毛を抜き、ガリガリに痩せたベイルの怪演もあってこれまた強烈です。7人の娘たちも、揃いも揃って安手のブロンドで、殆どが母親に従順な典型的ホライトトラッシュ一家として描かれています。
ボクシングを題材にして主人公の足を引っ張るホライトトラッシュ一家というと、クリント・イーストウッドの大傑作『ミリオンダラー・ベイビー』を想起させますね。
但しあちらに出ていた人でなしのクズ一家と違い、こちらは人間味があり、唾棄すべき人間とは描かれていません。
姉達の描写も含めて若干の誇張はあるものの、どこか憎めない人たちのように思いました。


この一家に宣戦布告を突き付けるシャーリーン役がちょっとびっくりのエイー・アダムスです。
どこかお嬢さんっぽい彼女ですが、口汚い場末のウェイトレス役、強烈一家に一歩も引きません。
身体もワークアウトをしていない一般人の肉体で、演技と肉体を役に近付けていて素晴らしい。
ベイルもそうですが、ハリウッドの役者たちの役への入れ込みようは凄いですね。
ともあれ、家族対恋人というサブプロットをメリッサ・レオと2人で支えていて素晴らしい。


この濃い面々に囲まれて振り回され、終始困った表情を見せるウォールバーグは、印象が若干薄まってしまっているのは否めません。
しかし役への入れ込み具合でいったら彼も負けていないと言えましょう。
徹底的に贅肉をそぎ落としたボクサーの肉体と、打たれ強いリング上の姿は、そのまま主人公の役に重なります。
それと本作のクライマクスは、終幕に盛り上がる試合場面ではないでしょう。
その前にある場面、再起を賭けたミッキーが「皆、同じだ。何故押しつけるのか」と家族や恋人らに向かって台詞を放つ瞬間にあります。
ここのウォールバーグは素晴らしい。
市井の人が日常に溜まった感情を吐き出す瞬間を的確と表現していたと思います。


とは言うものの、この映画の実質的な主役はやはりディッキーなのではないか、とも思ってしまいます。
再起を賭けるのは弟だけではなく、兄である彼自身でもあります。
自ら招いた奈落の底への転落から、必死に上がろうとする姿。
美味しい役であるものの、やはりこの兄に自然と視線が向かってしまいます。
兄弟の愛や確執も重ねられた復活劇は見ごたえがあります。
デヴィッド・O・ラッセル監督はボクシング映画と家族ドラマ映画の融合を上手く導き重層的な映画に仕上げました。
また、迫力あるファイト場面も含めて全体にメリハリを効かせ、いささか単調だった『スリー・キングス』とは段違いに面白い映画にしたと思います。
プロデューサーの1人で当初本作を監督予定だったダーレン・アロノフスキーでなく、ラッセルで交代して吉と出ました。


先日観たベン・アフレックの『ザ・タウン』と言い、本作と言い、マサチューセッツ州愛に溢れた映画でもあります。
本作のプロデューサーでもあるウォールバーグはボストン近郊の生まれで、本作舞台となっている街から車で30分の所での生まれ育ちとの事。
ディパーテッド』でも水を得た魚のようだったのは、ボストンを舞台にボストン訛りで喋れたからでしょうね。


ところで映画の冒頭のロゴ・マークを見て、本作がワインスタイン・カンパニーの作品だと知りました。
先日観た『英国王のスピーチ』もそうでしたから、あちらとこちらでアカデミー賞主要部門をほぼ独占状態だったんですねね。
『英国王』が作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、主演男優賞(コリン・ファース)。
こちらが助演女優賞メリッサ・レオ)、助演男優賞クリスチャン・ベイル)。
大好きなエイミー・アダムスは3度目の助演女優賞候補でしたが、共演者のレオにさらわれた感じですね。
ハーヴェイ・ワインスタインボブ・ワインスタインの辣腕兄弟、恐るべしです。


その『英国王』との共通点。
あちらは実際には年上のコリン・ファースが年下のガイ・ピアースの弟役でした。
こちらも今年40歳のマーク・ウォールバーグが、今年37歳のクリスチャン・ベイルの7つ年下の弟役です。
あちらが年齢差に違和感があったのに対して、こちらは観ている間は納得してしまう兄弟でした。


映画の上映中にドコモの地震警報音が劇場内にあちこち鳴り響き、地震発生を知ると同時に、携帯の電源を切っていない輩が多いのも知ってげんなりしてしまいました。
地震速報が気掛かりなので電源を切っていない人もいるのでしょうが、それはそれ、これはこれ。
劇場内では電源をちゃんと切ってもらいたいものです(-_-;
しかしながらどうしても不安な方もいるでしょうから、「強い揺れが発生時は灯りを付けて誘導します、だから携帯の電源を切ってね」と劇場側が告知すべきですよね。


尚、実際の試合の動画と映画の内容を比較してのこちらの記事が面白かったです。
映画をご覧になって感動した方は是非どうぞ。