days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

True Grit


ジョエルとイーサンのコーエン兄弟新作『トゥルー・グリット』を観て来ました。
土曜13時35分からの回、175席の劇場は5割程度の入り。
西部劇という題材だからか、あるいは震災直後に公開開始となって宣伝が行き届かなかったからなのか、劇場では観客の殆どが中高年男性ばかりでした。
これはもっと幅広い層にも観てもらいたい映画なのです。


父親を使用人チェイニー(ジョシュ・ブローリン)に殺された14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は、連邦保安官コグバーン(ジェフ・ブリッジス)を雇って仇討の旅に出ます。
チェイニーは悪党ラッキー・ネッド(バリー・ペッパー。エンドタイトルを観るまで分からなかった化けっぷり!)の仲間に加わり、ネイティヴ・アメリカン居留地に潜伏している模様。
マティとコグバーンにテキサス・レンジャーのラビーフマット・デイモン)も加わり、3人は悪党どもを追跡しますが。


1969年のジョン・ウェイン主演の西部劇『勇気ある追跡』のリメイク…というよりも、コーエン兄弟はチャールズ・ポーティスの原作小説に惚れ込んでの映画化とか。
オリジナル版は20数年も前にテレビ放送で見ましたが、随分と雰囲気は違っていたのは確かです。
細部は殆ど覚えていないものの、アイパッチをしたジョン・ウェインは豪快でカッコ良く、映画自体も明るく能天気だったと思います。
本作のブリッジスはアイパッチはしているものの、酔いどれで終始お喋り、すぐに人を撃つ危険人物。
妙にプライドばかり高いラビーフも、コグバーンとすぐに張り合い、2人とも非常に子供っぽい。
反対にマティは映画の中における唯一の希望とも呼ぶべき存在で、したたかで冷静、でも子供でもあるとして描かれています。
あちらこちらにコーエン兄弟らしい可笑しさや皮肉はあるものの、少女の冒険物語として語られる為か、この兄弟作にしては今までに無く「観やすい」映画となっています。
町で大人相手に交渉する気丈な序盤はやや少女を客観視していますが、川渡り場面で冒険世界に一気に飛び込み、且つ少女に寄り添う事になる切り替えも何気に鮮やか。
これ以降、映画=コーエン兄弟の視点は常に少女と共にあります。
映画がポピュラリティを獲得したのは、ここにあると思いました。


しかしこれは同時に紛れも無く西部劇。
銃撃アクションは中盤とクライマクスに用意されているだけですが、緊張感と迫力に貫かれて、しかもカッコ良い。
どちらも非常に印象的なアクション場面となっています。


役者ではやはり実質主役のスタインフェルドの達者振りに舌を巻きます。
ブリッジスとデイモンのスターに挟まれても気押されず、むしろ存在感があるくらい。
堂々たるものでした。
しかしヴェテランも負けないぞとばかり、前半にある酔っ払い落馬場面の酔いどれ振りも含めて、ブリッジスも素晴らしいダメ振り。
コーエン兄弟作品としては『ビッグ・リボウスキ』以来の主演ですが、あちらの汚れっぷりに負けず劣らずばっちくて面白い。
しかもクライマクスでは場をさらうヒーロー振りも勇ましく、さすが。
このところ引き立て役の巧さも光るデイモンは、こちらでも巧い。
この人は本当に器用ですね。
見せ場もきちんと用意されています。
色々な監督に重宝されるのも良く分かる役者です。


今年観た映画の中では1番好きかも知れません。
オリジナル版の印象が殆ど無い今、随所の描写も現代風で全くの新作西部劇として楽しめましたた。
笑いと緊張、アクションと静謐さ、現実と伝説といった対比も含蓄ある内容。
題名の「真の勇気」とは一体何なのか、誰が持っているものなのか、というテーマもありつつ、勇気と引き換えに失ったものも提示される衝撃的なラストが、深い余韻を残します。
この苦いエンディングも素晴らしく、余韻が残る幕切れ。
原作小説を書店で軽く立読みしたら、台詞も含めて極めて忠実なくだりに驚きました。
勇気ある追跡』と基調を異にするのは、このエンディングの差も大きいと思います。
そしてエンドクレジットに流れる『Leaning on the Everlasting Arms』の美しい旋律も耳に残りました。
全てのショットが美しいロジャー・ディーキンスの撮影も、特筆すべきものと書き添えておきましょう。
お勧めの傑作です。


トゥルー・グリット (ハヤカワ文庫 NV ホ 16-1)

トゥルー・グリット (ハヤカワ文庫 NV ホ 16-1)


さて実はこの映画鑑賞、妻から家を追い出されてのものでした。
誕生日が近いからと、前から観たいと言っていたこの映画を見に行かされ、私が外出中に娘と料理するから、17時まで帰宅しないようにと釘を刺されていたのです。
その真相は…続きはまた