days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Sucker Punch


ザック・スナイダーの新作『サッカー・パンチ』転じて『エンジェル ウォーズ』を観て来ました。
何とも酷い邦題ですが、公式ツイッターでも「話題に上がるのはこの件が多いです。上司にも話しています」とつぶやかれている位なのだから、酷いと思っているのは私だけではないようです。
しかし『サッカー・パンチ』だと日本人には意味不明ですからね。
「小娘のキツい一撃」「小娘、一死報いる」くらいの意味ですが、映画の内容を表しているとは言え直訳では邦題にはなりそうもありません。
だから安易で映画の内容とかけ離れた、こちらも意味不明のカタカナ邦題になったのでしょう。
配給会社宣伝部はプロなんだから、もっとアタマを使った邦題を作ってもらいたいものです。


この映画の公開については、まだ苦言を呈したいです。
全国公開なのですが、殆どが吹き替え版での上映で、字幕版は全国で数館のみ。
スナイダーの前作『ガフールの伝説』も同様、字幕版は関東では1館のみというお粗末さでした。
今作は吹き替えアイドル・ユニットのスフィアが主人公達を吹き替えているという事ですが、そんなの観客動員に関係するのかね。
案の定、公開2日目の土曜20時50分から上映にも関わらず、109シネマズ クランベリーモールのIMAX劇場は30人程度の入りと寂しいものでした。


母の死去後、継父の虐待によって妹を殺された20歳のベイビードール(エミリー・ブラウニング)は、継父に怪我を負わせるもレノックス精神病院に幽閉されてしまいます。
彼女を待っているのは、数日後に回診で来院する医師によるロボトミー手術。
ベイビードールは病院の仲間達4人(アビー・コーニッシュジェナ・マローン、ヴァネッサ・ハジェンス、ジェイミー・チャン)に声を掛け、抵抗と脱出を試みようとしますが。
脱出に必要なアイテムは5つ。
地図、火、ナイフ、鍵、残る1つは謎。
彼らはアイテムを入手して脱出出来るのでしょうか。


映画の基本はベイビードールの現実逃避の妄想場面で構成されています。
病院はバーレスクのある娼館へと変貌し、看守や医師たちがそこをし切るギャング等となります。
ベイビードールは彼らの目を奪うダンスを見せるという設定。
ダンスの間に仲間たちは脱出に必要なアイテムを入手し、ダンスの間に第二層の妄想に落ちたベイビードールは剣と銃を使いこなす超人として、仲間たちとナチの蒸気機関ゾンビ軍団や、巨大ドラゴン、ロボット軍団らと戦いを繰り広げるのです。
昨年公開されたクリストファー・ノーランの『インセプション』を思わせる構成となっていますが、リアリズム重視のあちらに比べて、本作はけばけばしく派手で人工的なCGI連発となっています。
妄想や夢という意味では、理屈が通らない本作の方が逆にリアリズムがあります。
あちらは「夢なのにそんな整合性が本当に必要なのかね」という作りでしたからね。
実際、ザック・スナイダー初のオリジナル脚本作品は、彼の妄想や嗜好をこれでもかと詰め込んだもの。
ヒロインはセーラー服姿だし、仲間もセクシーな衣装で銃器撃ちまくり。
サクラ大戦』か!?(いや、観た事無いけど)な女性兵士が操るロボットに、古城での巨大火吹きドラゴンやオークの軍勢との戦い、絶対悪であるナチス・ドイツ兵殺しまくり(但し蒸気機関で動くスチームパンクなゾンビなので、好きなだけ殺してもOK)、スティーヴン・キングの『ダーク・タワー』に搭乗するロボット・モノレールを思い出させ荒野を疾走する列車と、いつかどこかで観たり読んだりしたもののパッチワークだけで構成されている、と言っても過言ではありません。
絶望的な現実の中、妄想の中ではヒーローというのはテリー・ギリアムの力作『未来世紀ブラジル』と同じですが、あちらに登場したサムライ・ウォリアーも、CGで現代風アップデートを施されて登場。
主人公と戦う見せ場もあります。
わざわざ指摘するまでもなく、これはもう完全にザック・スナイダー妄想世界大爆発状態なのです。


音楽も有名曲のカバーやリミックスを多用。
冒頭曲がユーリズミックスの『スウィート・ドリームス』なのは、「レノックス」病院到着までを描いているから洒落なのかな。
勿論、ヴォーカルのアニー・レノックスのレノックスでしょう。
映像も音楽も極めて現代風、やりたい放題です。


しかし過去の様々な作品からのパッチワークとなると、新鮮味が薄くなるのも当然。
何かプラス・アルファがあれば良いのですが、本作の場合はそれが薄い。
捻りの無い内容だけではなく、壮大な映像すら驚きに欠けており、画面内で繰り広げられるのは飽くまでも予想範囲内のものばかりなのでした。
映画の半分を占めるスローモーションとハイスピードを組み合わせたスナイダーのアクション演出も、いい加減多用し過ぎで興奮に欠けます。
それでも案外普通に面白く観られたのは、ケレンだけで成り立っている映像と音響によるものでしょう。


登場人物で目を引いたのはジェナ・マローン演ずるロケット。
単刀直入で開けっ広げな性格描写が面白い。
彼女の姉役を演じたアビー・コーニッシュは、時折若い時のニコール・キッドマンを思わせ、こちらも眼福でした。
でも私が1番良かったと思ったのは、ヒロイン達を導く賢者役スコット・グレン。
頼もしさと優しさが表に出ていた役で、近年やや不遇なグレンのファンとしては久々に好ましく思ったのでした。


IMAX上映の映像はフィルム・グレインが意図的に目立つものでしたが、さすがに明るく高解像度。
音響は高域から低域まで伸びていて素晴らしい。
衣服を振動させる超重低音もIMAXならでは。
この体験を知ってしまうと、多少内容が物足りなくても劇場での鑑賞の満足度が上がってしまうのです。