days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

久々に渋谷区な日…Scott Pilgrim vs. the World, Henry Derger: American innnocence - Welcome to the Realms of the Unreal (完了)


ゴールデンウィーク中日の月曜日の今日、有給取って休みました。
10連休を効果的に使わねばなりませぬ。
朝から妻子を保育園やら駅やらまで送り、そのままフィットネスクラブで運動し、駐車場に引き返してジムバッグを置きに戻ってから駅に向かって電車でGo!
目的地はまずは渋谷です。
スペイン坂上にあるシネマライズ渋谷にて上映中の映画『スコット・ピルグリムVS. 邪悪な元カレ軍団』がお目当てでした。
Sasaさんも既に輸入Blu-ray Discで御鑑賞済みですね。
平日昼前の11時より、303席の劇場は3割くらいの入り。
観客層は20代が圧倒的に多く、内7割が男性でした。


ブライアン・リー・オマリーによる原作コミックは全て読んでおり、これらは拙ブログでも紹介済み。
絵柄は可愛く、日本人にもとっつき易いもの。
大変楽しいカナディアン・コミックなので、是非お勧めしたいものでした。


映画版は原作発表と同時進行で製作がされたもの。
キック・アス』と似たようなものなのでしょうか。
両者とも、原作と映画版で後半が異なるのはその為かも知れません。
ともあれ一目惚れしたラモーナと付き合う為に、無職の売れないバンドマンであるスコットは、彼女の元カレ(カノも含む)7人を撃破しなくてはならないのには変わりありません。


さて本作ですが、まずはネットでの署名運動により、日本での劇場公開が実現した事を喜びたいものです。
キック・アス』同様、私も署名したので嬉しさひとしお。
発起人の方にも敬意を表したい。
そしてこれが非常に面白く、良く出来た映画だったのが、さらに嬉しい。
エドガー・ライトの映画デヴュー作は秀作『ショーン・オブ・ザ・デッド』でした。
次に『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』が署名運動にて日本でも公開され、初日に掛け付けたものです。
これも面白かったものの、いささか冗長に感じられる部分もありました。
して本作。
これはライトの今の所最高傑作ではないでしょうか。


後半が原作と結構違う所もあるし、随分と省略しているけれども、2時間以内にテンポ良くコンパクトにまとまっていました。
派手なアクションや大爆笑ポイントも多く、最後まで全く飽きさせずに観られます。
それでもゲーム画面をわざと意識した過剰に装飾された映像は、拒否反応を示す人も少なくないと思われます。
これは現実をゲーマー世代スコットの脳内フィルターを通して観た映画とも受け取れ、だからこそのゲーム映像なのですから。
しかし派手な意匠や装飾を取り除くと、意外にも古風な内容が浮かび上がって来ます。
それは身勝手で自分の世界に生きていた、いつまでも大人になり切れない青年が、恋愛を通して現実を見据えて自ら成長しようという物語。
メインプロットとテーマをきちんと抑えている映画なので、観客側も内容を受け止められれば、全く問題無く見られる王道のラブコメディでもあるのです。


原作のスコットは、後半ではダイナーの皿洗いとして就職して、ラモーナとの現実に生きようとします。
しかし映画版でのスコットにはそんな姿は無く、最後までリアリティの無い世界で元カレ達相手の激闘と自己憐憫を繰り返します。
これはこれで正解だと思いました。
生活感が出てくる原作後半をそのまま映像化したら、荒唐無稽なアクション映像との差が激しくて、映画としてのバランスを欠いたでしょうから。
非現実的世界での成長も描かれているので、このように一気呵成に突き進んで正解でした。


スコット役マイケル・セラは原作とかなりイメージが違うものの、本質を掴んでいて良かったです。
根拠の無い自信(に見える言動)と自己中心的な夢見る若い男というのは、人によっては痛いもの。
セラはイヤな所もあるスコットを等身大で演じ、またイヤでありながら良いヤツという難しい役柄を好演していました。
スコットの同居人でゲイで知恵者のウォレス役キーラン・カルキンも良かった。
いやぁ、兄貴のマコーレー・カルキンと相変わらず顔立ちそっくりですが、今や貴重な脇役俳優ですよね。
儲け役ですが印象に残ります。


しかししかし私の目が1番行ったのは、やはりラモーナ役メアリー・エリザベス・ウィンステッド
いや、可愛いです!
先日観たグラインドハウス』の『デス・プルーフ』にも出ていましたが、添え物だったあちらと違い、こちらはれっきとした主役級。
アクションも見せるし美人だし、基本は無表情でクールなのに、そこにふと見せる感情表現が可愛らしく、そりゃスコットでなくとも惚れ込むでしょう。
エターナル・サンシャイン』のケイト・ウィンスレットもかくやというヘアカラー変化も楽しい。


元カレ・元カノたちの賑やか振りも笑えた点も言っておきましょう。
スーパーマン リターンズ』ことブランドン・ラウスの頭悪さも、ラスボスことジェイソン・シュワルツマンの気色悪さも可笑しい。


今年は気に入った映画が何本かありますが、本作もその中の1本として個人的にも記憶されるものでした。
日本でも是非多くの方に観て貰いたい映画だと思います。


劇場ロビーにはエドガー・ライトマイケル・セラらのサイン入りポスターも飾ってありました。

ロビー内にあるこれや、ライト来日インタヴューの雑誌切り抜き等を見てからランチを取り、今度は原宿に移動です。


原宿での目的地はラフォーレ原宿内のラフォーレミュージアムです。

ここを訪れるのは初めて。
往年のSF専門誌『スターログ』にはよく登場していた記憶があるのですが。
同誌発行人の鶴本正三氏のデザインによるミュージアムなんですよね。
という事は、『スターログ』ファンにとっては聖地みたいなもんなんでしょうか。
このミュージアムでのお目当ては、『ヘンリー・ダーガー展 〜アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く「非現実の王国で」』です。
ヘンリー・ダーガーの作品は、正式な美術の教育を受けていない人によるアート、いわゆるアウトサイダー・アートに分類されるものでしょう。
ダーガーは19歳から81歳で死去する数年前まで、小説『非現実の王国で』の執筆と挿絵を描き続けました。
子供達を虐殺・搾取する残虐な男たちによる王国と、不死身の少女たち率いる王国による戦争を描いた、1万5千ページもの超大作だったのです。
しかし普段は全く目立たず、みすぼらしい格好をしていた小男の老人に目を留める者は居ず、彼の死後、アパートの大家が発見した膨大な量の原稿・絵により、美術史に名を残す事になったのです。
その人生と作品を追ったドキュメンタリ映画『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』は観たかったのですが、残念ながら見逃しています。

薄い紙両面に書かれているのでどうやって展示しているのかと思ったら、ガラス板に挟んで両側から鑑賞可能になっていました。
そして実際にダーガーの絵を観てみると、圧倒されました。
文字も絵も稚拙ですが、だからこその純粋さと狂気と迫力があります。
何十年にも渡って個人の脳内で構築されていった1つの世界。
当時の雑誌等からトレースされた少女たちの顔たちも、全裸になるとペニスが付いており、観ている者は戸惑いもしくは居心地の悪さを感じます。
この男性器の謎は諸説あるようですが、非常に興味深い。
しかし圧倒されるのは、悪の王国の兵士たちによる少女たちの殺戮。
首を絞められて目が飛び出す少女たち。
はらわたをくりぬかれ、あるいは骨がむき出しになった死屍累々となった少女たち。
これは中々忘れられません。
しかし、子供達が搾取され殺害されるのは現代も同様です。
ファンタジー世界を描きながら、普遍的内容を描き出していると思いました。
これは色々と考えされられる展覧会です。
観る人を選びますが、お勧めします。