days of cinema, music and food

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The Adjustment Bureau


マット・デイモン主演、フィリップ・K・ディック原作の『アジャストメント』を観て来ました。
ボーン・アルティメイタム』の脚本を担当したジョージ・ノルフィの監督デヴュー作です。
公開2週目の土曜20時35分からのレイトショウ、116席の劇場は5割程度の入りでした。


将来有望な若手政治家デヴィッド(マット・デイモン)は、ある日出会った美しいバレリーナのエリース(エミリー・ブラント)に一目惚れします。
しかし突如現れた男達によって、デヴィッド拉致されてしまいます。
彼らは人の運命を調整する調整局の局員であり、この世の全ての運命は既に決定された運命から逸脱しないよう、モニターされているというのです。
調整局によって本来会う筈が無いとされるエリースから引き離されたデヴィッドでしたが、必死の抵抗を試みるのでした。


マット・デイモンと言えば、近年ではやはりジェイソン・ボーンのイメージが強いです。
あれは明晰な頭脳と強靭な肉体、目にも止まらぬ反射神経の持ち主でした。
一方、『インビクタス 負けざる者たち』や『ヒア アフター』といったクリント・イーストウッド映画での好演も忘れられません。
まぁ、前者はラグビー・チームのキャプテンではありましたが、どちらも普通の人という役どころでした。
本作はそんなデイモンが主演だし、原作はディック。
予告からするとSFアクション・スリラーっぽいと予想していました。
オリジナル・ポスターだって、ほら、どことなくアルフレッド・ヒッチコックの名作『北北西に進路を取れ』を思わせるじゃないですか(トップ写真)。


ところが、これが予想以上に小味な不思議映画だったので、少々の驚きを禁じ得ませんでした。
何しろアクションと言えば中盤や終幕に用意されている駆けっこくらい。
格闘場面すらありません。
デイモンが相手にパンチ1発お見舞いする場面はありましたが、殴るのはそれくらいのもの。
カリ等の格闘技を駆使したハイスピードなアクションなど皆無です。
今時こんな地味なハリウッド製SF映画とは。
いえ、科学的裏付けは一切無く、内容も含めて「少し不思議」系の映画と呼びましょう。


と、地味さ加減にも驚きましたが、メインが恋愛物語なのも予想外でした。
調整局が引き離そうとしても引力のように惹かれ合う2人と、引き離されまいと奮闘するデイモンの物語。
デイモンが調整局の裏をかく展開もありますが、スリルにはやや乏しい。
これはジョージ・ノルフィの脚本と演出が平板気味だからでしょう。
2人の恋愛劇、恋模様の描写がもっと切実だったならば、スリルも盛り上がったと思います。
またアクション描写にも切れが欲しい。
駆けっこだけでも良いから、スリルと高揚感が出ていれば…と惜しく思うのでした。
それでもドアを開けると別の空間に繋がっているという描写は楽しく、このどこでもドアの描写は地味にハリウッドの底力です。
合成も良く出来ていました。
映像化予定となっているスティーヴン・キングの『ダーク・タワー』シリーズも、どこでもドアはこんな感じなのでしょうか、等と予想するのも楽しい。


キングと言えば、本作を観ている間に想起したのが『デッドゾーン』です。
これは…ひょっとして裏デッド・ゾーンか!?等と思って観ていました。


役者ではすっかり白髪が目立つようになったデイモンが、優等生ではない若手政治家を誠実に演じていて、良かったです。
まだ若い筈なのに苦労がにじみ出ているようなエミリー・ブラントも良かった。
凄腕調整局員役テレンス・スタンプの迫力、悩める局員役アンソニー・マッキーも印象に残りました。
マッキーは『ハート・ロッカー』の好演もあったので、今後も注目したい若手俳優ですね。


恐らくは原作短編とは全く違うであろう映画でしたが、気軽に観る分には悪くないかな、と思いました。